第66話 勝負の行方(1)
俺の身体がゴールテープを切った――4組のアンカーと同時に。
俺は結局、並走したまま抜き去ることができなかったのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
荒い息を繰り返しながら膝に手をついた俺は、すぐさま1着と2着の旗を持った誘導係に視線を向ける。
(どっちが勝った!?)
ほぼほぼ同着だったはず。
だが俺としては負けたとは思っていない。
ゴールテープを切った瞬間。
ほんのわずかながら、俺の身体が4組アンカーより前に出ていた気がしなくもなかったからだ。
もちろんギリギリの勝負で俺も前だけを見て全力を振り絞って走っていたから、正確にどちらが勝ったかの確証はない。
それでも俺が5年間、異世界で勇者として実戦を通して培ってきた歴戦の肌感覚は、俺の勝利を告げていた。
(で、どっちなんだ?)
しかしいくら俺が視線を向けても、なぜかいつまでたっても誘導係は俺たちのほうに歩み寄ることはなく。
代わりに運営のテントに視線を向けたまま、戸惑ったようにその場に立ち尽くしている。
なんとも言えない奇妙な間ができ、俺はすぐ近くにいた4組アンカーと思わず顔を見合わせた。
さっきまでは一歩も譲れないライバルだったけど、別に俺と彼とは相いれない敵ってわけじゃない。
むしろ走り終わった今では、互いに全力を出し切った同じ高校に通う1年生同士だ。
「織田だっけ? 2学期から高校デビューした、何やらしてもインターハイ優勝レベルのヤベー帰宅部が5組にいるって、噂には聞いてたけど。あれだけあった差をゼロにするとかお前マジで速すぎだろ。余裕で逃げ切れると思ってたのにさ」
「そっちこそ最後はすごい粘りだったじゃないか。どうしても抜ききれなかった」
「俺にも最終種目のアンカーを任された意地ってもんがあるからな」
「ああ、これ以上なく見せられたよ」
俺たちはそのままどちらともなく右手を出し合うと、互いの健闘をたたえ合うようにガッシリと握手を交わした。
そうしている間に、他のクラスのアンカーたちも次々とゴールをしてくる。
しかしそれでもいつまでたっても結果が判明しないせいで、生徒や保護者たちが次第にざわざわとし始める。
そんな中、運営からのアナウンスが入った。
『えー、運営からのお知らせです。運営からのお知らせです。先ほど行われた1年生男女混合スウェーデンリレーですが、1位と2位が非常に僅差の勝負だったため、現在最終順位の確認作業を行なっております。競技者各位、およびご観戦の皆さまは順位が確定するまでの間しばらくお待ちください』
アナウンスの通り、運営責任者席にはゴールテープを持っていた係の人が呼ばれ、他にも何人かの先生や生徒会の運営スタッフが集まって協議を行っていた。
ゴールを横から録画していたカメラの映像を真剣にのぞき込んで確認したり、運営マニュアルを開いて何らかの個所を指差して説明している人もいる。
確認にかなり長い時間がかかっていることで、周囲のざわめきが次第に大きくなっていく。
そして上がっていた息もほとんど落ち着いた俺のところに、ハスミンたちリレーメンバーが集まってきた。
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