第34話 後夜祭(3)
「お、いいな、打ち上げか。行こうぜ。新田さんたちも誘うんだよな?」
生まれて初めて「打ち上げ」というものに誘ってもらった――しかも可愛い女の子から――俺は、嬉しさそのままに満面の笑みで答えたんだけど、
「えっ? メイたちを? えっと、あ、うん。そうだね、みんなも誘おっか」
「……?」
あれ、今のハスミンは少し変な反応だったような?
ちょっと声が沈んでいたっていうか。
ってことは、今のはもしかして社交辞令だったのかな?
俺は断るのが正解だった?
しまったな。
そうだとしたら、やっぱり用事があると言って今からでも断ったほうがいいな。
そもそも俺は部外者の上に男で。
しかもハスミンたちにとっては、ついこの間まで名前も知らない陰キャだったのだ。
そんな俺が──ギターの代役をやるみたいな緊急事態は別として──ハスミンたち仲良し女の子4人組に割って入るのは、普通に考えたらおかしいもんな。
そして今の俺ときたらそんなことにも思い至らないくらい、この文化祭と後夜祭の空気に浮かれてしまっていたのだろう。
「いつ行こうか? 修平くんの予定教えてよ?」
でもハスミンはすぐにいつものハスミンに戻っていて。
俺が口を開くよりも先に笑顔で俺の予定を尋ねてきた。
(ってことは俺の気のせいだったのかな? まぁ今さら聞くのもなんだし、今はいいか。今回はハスミンたちとご一緒させてもらおう)
「俺は放課後はいつでも空いてるから基本的にオールオッケーだよ。いつでも誘ってくれて大丈夫だ」
「じゃあこっちで適当に調整しとくね」
「よろしく頼むな」
「あ、うちのグループは遅刻・ドタキャンは厳禁だから。約束はちゃんと守るように」
「オーケー、肝に銘じておくよ」
その後もハスミンと2人でキャンプファイヤーの揺れる炎を見て、文化祭とその準備についてあれこれ思い返しながら話していると、
「あわわっ!?」
突然ハスミンが、隣を通り抜けようとした生徒に肩の後ろのあたりを押されてしまいバランスを崩した。
俺は勇者時代に培った超反応ですぐさま右手を差し出すと、バランスを崩して前方につんのめっていたハスミンの腰を抱いて俺の方へと引き寄せる。
「大丈夫だったか?」
右手で抱きかかえたハスミンに優しく声をかけると、
「あ、うん……だいじょうぶ……」
なぜかハスミンは身体を縮こませながら蚊の鳴くような小さな声で呟くと、うつむいてしまったのだ。
「ならよかった。向こうも悪気はなかったんだろうけど、かなり人が増えて来てこの辺も混んできたもんな」
「う、うん……あの、えっと……」
身体を縮こまらせていたハスミンがさらにキュッと身体を硬くする。
「どうしたんだハスミン? さっきからやけに緊張してるみたいだけど」
「あの、えっと、腰に……手が……その、当たってて……」
言われて、さっきからずっとハスミンの腰を抱いていることに思い至った。
「悪い、とっさだったから。すぐ離すよ」
「え? ううん。あの……べ、別に、い、嫌じゃないし……」
ハスミンはそう言うと左手を俺の腰にそっと添えてきた。
「ハスミン?」
「え、えへへ、ぜ、全然嫌じゃないし……?」
「お、おう」
そのままお互いに無言のまま。
俺たちは腰に手を添え合いながら身体を密着させる。
しかもそれだけでなく、ハスミンは体重を預けるように俺にもたれかかってきたのだ。
さらにハスミンは俺の肩にこてんと頭を預けてくる。
ハスミンと触れ合う身体の右側から、ハスミンの体温や柔らかさがこれでもかと俺に伝わってきて。
ついでにハスミンのいい匂いもまでも香ってきて――。
(どうしたんだろう? 今日のハスミンはえらく大胆だな。さっき俺がかなり浮かれていたみたいに、ハスミンも後夜祭の雰囲気に当てられて気持ちが大きくなっているのかな?)
そうしてしばらくその体勢のままで、俺とハスミンは燃え盛るキャンプファイヤーの火を静かに眺めていた。
火の勢いがすっかりなくなって辺りが暗くなり始めた頃になってやっと、俺とハスミンはどちらからともなく身体を離した。
ハスミンの温もりが離れていくことに得も言われぬ寂しさを感じてしまう。
「……そ、そろそろ帰ろっか」
「……そうだな。だいぶ人も減ってきたもんな」
そのまま俺たちは言葉少なに帰路についた。
そのいつもの俺たちとは全然違った会話の少ない静かな時間は、だけど俺にはとても素敵な時間に感じられたのだった。
こうして。
今までの人生で一番楽しくて充実した高校1年の文化祭は、最後の最後までまったく色褪せることがないまま幕を閉じた。
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一年付き合ってた彼女が医大生とラブホから出てきた(NTR……涙)。帰り道、川で幼女が溺れていたので助けて家まで送ってあげたら学園のアイドルの家だった。
https://kakuyomu.jp/works/16817139557276517338
カクヨム日間総合1位獲得のじれじれラブコメです!
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