第35話 ~蓮見佳奈SIDE~2

~蓮見佳奈SIDE~



 わたし――蓮見佳奈は自分の部屋のベッドの上で、枕を抱きかかえながら体育座りをしていた。


 もうお風呂は済んで、髪も乾かし終わって、パジャマに着替えて。

 そうして膝に置いた枕に顔をうずめながら、わたしは今日の文化祭という日を思い返す。


 今年の文化祭はクラスで出し物をしたり、他のクラスを回ったりと色々なことがあった。

 だけど何にも増して特に強く思い出されるのは、一にも二にもライブでの一件だった。


『新田さんの代わりに俺がギターやれないかな』

 あの時の修平くんの声を思い出すだけで胸がキュゥっと熱くなる。


「あの時の修平くん、カッコ良かったなぁ……」


 メイが指を怪我してライブができなくなった時、さらっと何でもないことのように助けてくれた修平くんの姿をわたしは何度も思い返してしまう。


「今までギターが弾けるなんて一言も言わなかったのに、いざやったらこっちが心配してたのが馬鹿らしくなるくらいに、めちゃくちゃ上手なんだもん……」


 白馬の王子様のように颯爽と現れてパーフェクトに助けてくれた修平くんの姿に、わたしはもう胸のトキメキが抑えきれないでいた。


 うん、これはもう間違いない。

 わたしは修平くんに恋をしている。

 完全に好きになってしまっていた。


 だから後夜祭でキャンプファイヤーを見ながらカラオケに誘った時、今までみたいに簡単に誘うことができなかった。

 誘うのにものすごく勇気がいった。


 そして勇気を出して誘ったのに、みんなで打ち上げに行くって修平くんが勘違いしたことに、わたしは大きく落胆してしまったのだ。


 すぐに慌てて取り繕ったんだけど、気付かれてないよね?


「はぁ、わたしって自分勝手だよね……」


 勝手に期待して、勝手に落胆しちゃうんだからほんと救いようがない。

 修平くんがカラオケと聞いて打ち上げの話だと思ったのは、後夜祭というタイミングや話の流れ的にも当然だったろうし。


「そもそも修平くんは、わたしのことをそんな風に思ってないだろうしなぁ」


 あれだけ何でもハイレベルにやってのけるんだもん。

 わたしなんかじゃとても釣り合わないって思わされてしまう。


「実際釣り合ってないよね……」


 最近は他の女子たちが、修平くんのことをカッコいいと言っているのをよく耳にする。

 雑誌の読者モデルをやってる3組の二条さんも修平くんに気がある、みたいな話まで聞いてしまった。


「勉強や運動だけじゃなくて音楽もできるだなんて……あーあ、すごすぎてなんか劣等感感じちゃうかも……でも好き……好き……」


 わたしは枕に顔をうずめて万が一にも声が漏れないようにしながら、彼のことを想って好き、好きと呟いた。


「あ、でもでも最後のはなかったよね」


 後夜祭の時に肩を押されてバランスを崩したわたしを、修平くんがこともなげに抱き寄せて助けてくれたんだけど。


「まさか自分から修平くんの腰に手を回してくっつきに行っちゃうなんて……何してるのよわたし……」


 今になって考えると、なんであんな大胆なことをやらかしてしまったんだろうか。

 恥ずかしさで顔から火が出てしまいそうだった。


「ううっ、勘違い女とか、もしかしたら痴女って思われたかも……少なくとも軽い女の子だって思われちゃったよね。どうしよう……」


 あの時のわたしは、後夜祭の非日常の空気に完全に当てられてしまっていた。

 暗がりで燃え盛る炎を一緒に見る、なんてムード満点の空気に心が完全に浮足立ってしまっていた。

 勝手に彼女になった気分でいたと思う。


「節度を持たないとだよね。付き合ってもないのにあんなにくっつくだなんて、そんな軽い女の子を真面目な修平くんはきっと好きじゃないだろうし」


 うん、そうだ。

 今日で文化祭も終わって、明日からはまたいつも通りの日常が再開する。

 調子にのってしまった心をリセットして、明日からはちゃんと節度を持って接しよう。


 だって。

 だってもし恋心を知られてしまったら。

 今の関係は必ず変わってしまうから。


 良い方に変わるならいいけど、そうでなければわたしは今の立場を失うことになる。


 今のわたしは間違いなく修平くんと一番仲のいい女の子だ。

 席は隣で、クラス委員で一緒に仕事をすることもあって、当たり前のように隣にいることが許されている。


 だけどその始まりは本当にただの偶然だったのだ。


 始業式の日にチャラい2人組に絡まれて困っていたわたしを、修平くんが助けてくれて仲良くなった。

 わたしが何か努力をしたわけではなく、本当にただの偶然だった。


 しかも当時のわたしときたら、失礼極まりないことに夏休み明けに修平くんの名前を憶えてすらいなかったのだ。


 そんな、ただの偶然から転がり込んできた特別な立場を、わたしは失いたくなかったのだ。

 もう一度同じように作り上げる自信がなかったから――



―――――――


 『帰還勇者のRe:スクール(学園無双)』をお読みいただきありがとうございます!


 これにて「第2章 文化祭編」が終了です。


 続く「幕間」では皆さんから期待の声が多かった『あのヒロイン』が再び登場します!

 ヒントは「リ」から始まって、真ん中が「エ」で、最後「ナ」で終わる3文字の女の子です!


 気に入っていただきましたら、フォローと☆(評価)を入れて頂けると嬉しいです。

 ☆は3回まで押せますよ!

 なにとぞ~(>_<)

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