第22話 文化祭(3)

「それもこれも全部修平がこの提案してくれたおかげだよ、ありがとうな修平!」


「なに言ってんだよ。まず何よりもこの完成度の高さが一番の要因だっての。俺も事前に見せてもらった時に本気でビックリしたからな。なんだこれクオリティ高すぎだろって」


「それでも修平の提案がなけりゃ、そもそも学校の文化祭でコスプレなんてしなかったんだし、やっぱお前のおかげだよ。サンキューな心の友!」


「そう言われるとまんざらでもないかな。じゃあこの調子でこの後も客寄せを頼むぞ? なんせ智哉はうちの客寄せエースなんだから」


 俺が智哉にエールを送ると、


「おうよ、任せとけ!」


 智哉はどこか浮かれたように元気よく手を上げて返事をしながら、呼び込みに戻っていった。


(智哉が楽しんでくれているみたいでよかった)


 俺は異世界に行って勇者として戦う中で、陰キャな自分を無理やり変えた。

 変えないと文字通り生き残れなかったからだ。


 それでも今は無理やりにでも変われて良かったって思ってるんだ。


 一度きりの人生なんだから陰キャだって卑下しておどおど過ごすより、みんなと一緒に色んなことした方がきっと楽しいと思うから。


 だから陰キャ友達だった智哉が、今日こうやってクラスのみんなと仲良くあれこれするのを楽しんでくれて、俺はすごく嬉しかったんだ。


(すぐに変われってのは無理だと思う。でもこれで智哉も少しでいいから自信を持ってくれるといいな)


 そんなお節介なことを少しだけ考えながら、俺は再び1年5組の教室へと視線を向けた。


 教室では主に女子と、一部の男子が赤い服を身にまとって接客に勤しんでいた。

 女子がメインなのは純粋に希望者が多かったからだ。


 そして数少ない男子の中では、やはりバスケ部レギュラーの伊達が目立っていた。

 伊達はチームのユニフォームが赤だったこともあって、バスケのユニフォーム姿だったんだけど、とにかく女性客から大人気なのだ。


 なにせ伊達ときたら背は高いし顔はイケメンだし、バスケのユニフォームはノースリーブだから肩とか腕とか筋肉質な素肌が剥きだしになっている。


 そりゃ女性のお客さんがキャーキャー言うのも納得だった。


 そんな風にしばらく外から眺めて特に問題はなさそうだなと安心していると、


「お待たせ~」

 フロア担当を終えたハスミンが廊下へと出てきた。


「よし、じゃあ行くか」

「うん」


 俺はハスミンと連れ立って校内を見て回り始める。


 他のクラスの出し物を偵察しつつ、『1-5喫茶スカーレット』のプラカードを持って宣伝するのがこれからの俺たちの任務なのだ。


 ――とは言うものの。

 実際には、


「なんか文化祭デートしてるみたいだよね……?」


 二人で文化祭を見て回るという、デートみたいな感じになってしまっていた。

 ハスミンが顔を赤くしながら上目づかいで俺を見つめてくる。


「実は俺もちょっと思ってた」

「あはっ、だよね!」


 ちなみにクラス委員と副クラス委員が同時にクラスを離れるのはどうかと思ったんだけど、


「別に校内にいるんでしょ? だったら何かトラブルがあったらスマホで呼べばいいだけだし」

「だよね~」

「気にせず行ってきなよー」

「そうそう、クラス委員で2人して準備をがんばってくれたお礼っていうか」

「2人で好きなだけ楽しんで来てね~」

「はい、プラカード。一応宣伝だけよろしく。持って歩くだけでいいから」

「あ、2人ともスマホの電源は入れといてね。何かあったら連絡するから」


 そう言ってクラスの皆からやたらと笑顔で言われてしまったのだ。

 主に女子から。

 つまりは気を利かせてくれたんだろう。


(もちろんハスミンと文化祭を見て回るのは全然嫌じゃない――どころかすごく楽しみだしな。そうと決まれば、せっかくお膳立てしてもらったんだから目一杯楽しまないと損だよな!)


 俺とハスミンは宣伝のプラカードを持ちながら、文化祭で賑やかな校内を一緒に見て回りはじめた。

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