第21話 文化祭(2)
「それにしても、ほんとよくできてるよな」
こうやってしげしげと眺めてみてもその完成度は抜群で、これを1から自作したってのは正直驚きしかなかった。
智哉はデザインとか制作といった芸術方面の才能があるんじゃないかな?
ちなみに、せっかくだからコミケに行く前に文化祭で予行演習でもしてみたらどうかと智哉に提案したのは俺だったりする。
たしか智哉が夏休みに入る前に、
『俺、シャ〇専用〇クで今年の冬コミに行こうと思ってるんだよ。あれなら顔面さらさなくていいしさ。高校生になったんだから1度コミケに行ってみたいんだよな』
とかそんなことを言っていたのをふと思い出したからだ。
俺が異世界転移する前だから主観時間で5年以上前の記憶だった。
だけど俺と同じで目立つことが苦手なはずの智哉が、目立つことをやってみようと言い出したので俺の記憶にかなり鮮明に残っていたのだ。
ただ、俺の提案を聞いた智哉は最初、
『まだ全部はできてないし、学校であんま目立つのはちょっと……ほら、学校の奴らは俺が陰キャなこと知ってるわけだしさ? 調子に乗ってるとか思われたくないし……』
と、元陰キャの俺にはすごくよく分かる理由で難色を示していた。
陰キャあるあるの1つ『オタ活動中は学校の知り合いには絶対に見られたくない』だ。
しかし、
『柴田くん、ロボットのコスプレするの? ねぇねぇわたしも見てみたいかも? ね、クラスのためだと思ってお願い! 協力してよ? ねっ、ねっ? みんなで文化祭を盛り上げようよ』
『え、あ、うん。蓮見さんがそこまで言うならちょっとやってみようかな? でもあんま期待しないでくれな? しょせん手作りだし。一応頑張るけど』
『全然オッケーだし! じゃあコスプレ枠一つ確保ね! 楽しみにしてるね柴田くん!』
『あ、うん』
ハスミンに頼んで一緒にお願いしてもらったら気分よくオーケーしてくれた。
これも陰キャあるあるの1つ『可愛い女の子にお願いされたら嬉しくてつい舞い上がってしまう』だな。
そしてこの後『あらかじめできないと予防線を張っておきながら、でもやり過ぎなくらい完璧にしあげる』と続くのだ。
このへんも元陰キャの俺には、智哉の気持ちがすごくよく理解できていた。
そんなやりとりを思い出していると、人波が途切れたところでロボ智哉が俺のところまでやってきた。
開口一番、
「修平ありがとうな! 全部修平のおかげだよ!」
興奮しながら言った智哉は、俺の手を握ってブンブンと振ってくる。
「急にどうしたんだよ? なんの話だ?」
「だって俺がこんなに人気者になれるとは思わなかったからさ。見ろよこれ、俺クラスメイトと何人もライン交換しちゃったんだぞ!? しかも女子とも!」
智哉がスマホの画面を俺に見せてくる。
そこには男子だけでなく、女子の名前がいくつもあった。
「そりゃ良かったじゃないか」
「女子と一緒に写真撮ったりもしたんだからさ! 俺こんな楽しい文化祭は生まれて初めてだよ! ほんとありがとな!」
「智哉が喜んでくれて俺も嬉しいんだけど、1つだけいいか?」
「なんだ?」
「これシャ〇専用○クとして映ってないか? この写真じゃ智哉だって分からないぞ?」
「だからいいんだろ? 目立ってるけど目立ってないってのがさ」
「そうだな、その気持ちは分からないでもないかな」
陰キャあるあるの1つ『興味を持ってもらいたいけど、だからといって目立ちたくはない』だ。
顔や容姿に自信があって平気で晒せるなら、そもそも陰キャなんてやっていないわけで。
もちろん、分かるといっても『昔の俺としては』なんだけど。
今はもう何をするにしても、恥ずかしいなんて思うことは全くなくなっている。
5年も続いた魔王を倒す過酷な旅と比べたら、目立つと恥ずかしいなんていう感情は台風の日に窓際に置いたプリントのように、吹けば飛ぶ軽いものだった。
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