第20話 文化祭(1)

 そうして『色統一コスプレ喫茶』――正式名称『1-5イチゴ喫茶スカーレット』の準備を順調に進めて迎えた文化祭当日。


 赤いTシャツを着た俺は、教室の隅で暗幕に仕切られただけのなんちゃってバックヤードの中で、ホットプレートで次から次へとホットケーキを焼いていた。


 今日の俺は10時に文化祭がスタートした直後からの一番手でホットケーキを焼く大役を任されているのだ。


 その後はクラス全体を監督することになっていた。

 と言っても問題がなければ特に何をするわけでもないんだけれど。


 ちなみに正式名称の中の『1-5』はイチゴと読み、赤色のイメージとともに掛詞になっていて1年5組をアピールしている。

 スカーレットは英語でそのまま赤の意味だ。


 ハスミンたち女子が考えた名前なんだけど、俺もかなり気に入っている。

 それはさておき。


「焼き上がったぞー」


 前日練習の成果を存分に発揮した俺が、ふんわり綺麗なきつね色に焼き上がったホットケーキを紙皿に乗せると、


「ここからは女子力の見せどころよ、綺麗に盛り付けるわよ」

 それを女子たちがホイップクリームとフルーツで煌びやかに盛り付けていく。


「ホットケーキ・フルーツミックス盛り4枚入りました~」

「織田くん、こっちもミックス盛り2枚だよ!」

 さらには追加のオーダーが次々と入ってくる。


「了解だ」


 俺はさらに6枚のホットケーキを焼いていき――。


 交代要員とローテしながら、12時までの午前中の2時間、ひたすらホットケーキを焼き続けた。



 12時になって次の担当チームにホットケーキ係を代わると休憩に入る。

 みんなの邪魔にならないよう俺はいったん廊下へと出ると、スタートからここまでいい感じに繁盛している『1-5喫茶スカーレット』を外から眺めてみた。


(うんうん。やっぱりみんなで力を合わせて何かをするのっていいよなぁ)


 得も言われぬ達成感が込み上げてくる。


 魔王カナンを討伐した時の、力の限りを振り絞って手にした命がけの達成感とはまた一味違った、それは穏やかな温もりに満ちた充実感とも言える感情だった。


 あと、これは完全に余談なんだけど。

 実はメニュー作りの時にパンケーキとホットケーキ、どちらの名称を使うかでちょっとだけ議論があった。


 最終的に『ホットケーキミックスを使うんだからホットケーキだろ?』派が僅差で『パンケーキのほうがオシャレで映える』派に勝利し、今回のメニューはホットケーキになっている。


 閑話休題。

 クラスメイトでコスプレしている人は3割ほどだ。

 残りは俺と同じで、各々が持ってきた赤系のシャツを着ている。


 まぁコスプレといっても浴衣やチャイナ服だったりとかで、ガチでコスプレって感じの人は3人しかいないんだけど。


 一人はやたら可愛いフリフリミニスカートの巫女さんで、もう1人は魔女っ子だ。

 そして残る最後の一人はというと、俺の一番の親友こと柴田智哉だった。


 というか智哉はその中でもぶっちぎりで目立っていて、かつ大人気だった。


 と言うのも。

 智哉は赤いロボット――ガ〇ダムに出てくる有名なシャ〇専用〇クの全身着ぐるみ段ボールコスプレをしていたからだ。


 このコスプレ(っていうかモスプレ?=モビ〇スーツプレイ)は智哉がコミケに参加するために作っていたもので、その出来栄えときたらあまりにハイレベルに細部まで丁寧に作り込まれている。


 そんなハイクオリティなロボ智哉が、入り口近くでプラカードを持って客寄せをしているのだ。

 廊下を歩いている来校者や他のクラスの生徒たちは、吸いこまれるように次々と『1-5喫茶スカーレット』へと足を運んでいた。


(ここまでのMVPを1人挙げるなら、間違いなく智哉だな)


 それほどまでにロボ智哉は群を抜いて圧倒的な集客力だった。

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