第23話 文化祭デート(1)
【3年1組、タピの宿】
「うわっ、ここすごく流行ってるね?」
「3年1組は、ええっとなになに……タピオカ専門店か」
「うわー、これはまたベタに強いところ来たね。流行りのど真ん中って感じ」
「今日は晴れてて暑いから入れ食い状態だよな。さすが3年の先輩だ、今年初めての俺たちとは経験値が違う」
3年1組の教室内は文字通り大盛況だった。
校舎に入ってきた来高者たちは次々と足を止めてタピオカを購入していく。
「うちのクラスもドリンクでタピオカやればよかったかもね。テレビで結構簡単に作れるって言ってたし」
「そうなのか。なるほどいい勉強になった、来年以降の参考にさせてもらおう」
「あと『タピの宿』って名前がちょっと笑えるかも。思わずクスッときちゃった」
「旅の宿ならぬ『タピの宿』だもんな。俺も理解した瞬間ちょっと笑ってしまった」
「みんなよく考えてるよね。一本取られた感じ」
「大丈夫、ハスミンたちの考えた『1-5喫茶スカーレット』も全然負けてないから」
「あはは、ありがと♪」
【3年2組、お冷や処・すむーじ】
「ここはすごく可愛い名前だね」
「スムージー屋みたいだな」
「続けて飲料系だね?」
「この時期はまだ昼間は残暑が厳しいから、やっぱ飲料系は強いよなぁ」
「しかもスムージーならお手軽だもんねー」
「基本冷凍の果物とかを入れてミキサーかけるだけもんな。ミキサーなら持ち込み許可はまず間違いなく下りるだろうし」
「やっぱり3年生は文化祭も3回目だから、お手軽で人気なジャンルをよく知ってるよね」
「だな。ただまぁしいて言えば」
「しいて言えば?」
「その分だけ他のクラスと被る確率が高いってのが、俺としてはちょっと気になるところかな」
「あー、それは確かにねー。お隣のクラス同士で被ったりとかしたら悲惨そう」
「しかもなぜか片方だけ繁盛して、もう片方は閑古鳥だったりするんだよなぁ」
「えーと、それはちょっと笑えないかも……」
【3年5組、タピオカ専門タッピーナ】
「あれ? ここもタピオカ屋さんだけど、3年1組と比べて全然繁盛してないよね? どうしたんだろ?」
お客さんがほとんどいないガラガラの教室を不思議そうに見ながら、ハスミンが呟いた。
「そうみたいだな」
「もしかして美味しくないのかな。値段設定高めとか?」
「うーん、多分なんだけど動線の差じゃないかな? 高校生が文化祭でやるものに、そこまでの差があるとは思えないし」
「動線の差ってなに?」
よく分かんないかもって顔をしながら、ハスミンが小首を傾げた。
「さっきの3年1組の『タピの宿』は校舎入り口の階段を上がってすぐだろ? 暑い外から校舎に入ってきて喉が渇いてる人が、まずあそこでタピオカを買ったとする」
「ふむふむ、暑くて喉が乾いてて、それで入ってすぐタピオカ屋さんがあったら、わたしもとりあえずタピっちゃうかも」
「だろ? それでそのタピっちゃった人は、入り口から一番遠いところにある3年5組のタピオカ屋を、ほぼ間違いなくスルーすると思うんだよ」
「あ、そういうことね、なるほど。なんとなく言いたいことが分かったかも」
「そして3年1組の『タピの宿』はものすごく流行っていた」
「うわぁ、それってもう完全に戦う前から負けてるってことだよね? 配置負けっていうか」
「タピオカでメニューが被った相手の立地が、よりにもよって入り口に一番近い一等地だったのが、このクラスの運の尽きだったんだろうな」
「運かぁ……それは本気で辛いかも。3年5組の先輩たち、なんかもう完全にお通夜ムードだよ?」
「3年生は高校最後の文化祭だからな。特に出し物の責任者は、これは相当辛いだろうな」
「ううっ、責任者の気持ちを想像するだけで胃がキリキリしてきた……」
もし自分が同じ境遇だったとしたら、俺もクラスの皆への申し訳なさでいっぱいになると思う。
幸いにも『1-5喫茶スカーレット』はロボ智哉やイケメン伊達の驚異的な集客力のおかげもあって、これ以上なくいいスタートダッシュを切ることができていた。
「これも反面教師として来年以降の参考にさせてもらおう。ってなわけで、ここでタピオカを買っていっていいか? 針のむしろみたいな状況にいるであろう責任者の気持ちが、ちょっと他人事とは思えなくてさ」
「あはは、修平くんは1年5組の責任者だから同じ立場同士、3年5組の責任者の人の気持ちがこれでもかって分かっちゃうよね」
「ほんとすごく分かっちゃうんだ。ここだって最後の文化祭のために、他のクラスに負けず劣らずしっかり準備してただろうし」
「じゃあわたしも一緒にここでタピろうかな。話してたら喉乾いちゃったから」
俺たちが注文に行くと、3年5組の先輩たちはすごく嬉しそうな顔になった。
特別サービスで上までいっぱいに並々と注いでもらい、そのカップを片手に俺とハスミンは偵察という名の文化祭デートを再開した。
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