第24話 文化祭デート(2)

【2年3組、ミ〇四駆レース場】


「うわっ、すごいコース! 教室一面だし!」


 ハスミンが今日一番ってくらいの歓声を上げた。


「確かにこれはすごいな。教室一面に広がる段ボールで作った超大型のミニ〇駆のコースとは恐れ入った」


 俺もそんなハスミンと同じ気持ちだった。

 だってものすごい手間がかかってるぞ、これ。


「ただ平面で走るだけじゃなくて色んなエリアがあるよね。立体的っていうか。わわっ、あそこジャンプしてるよ?」


「ジャンプセクションだな。飛び出し角度と着地が結構シビアなんだよなぁ」


「へぇ、最近はそんなのまであるんだね。昔はくるくるコースを回ってただけだったのに」


「近所のおもちゃ屋とかにあった簡易コースはそんな感じだったよな」


「いろいろ進化してるんだね。それでは解説の織田さん、コースの解説をお願いします」


 ハスミンがマイクを握った風で、エアマイクを向けてくる。


「そうだな。他に目立つのはらせん状に50センチ以上駆け上がっていくハイタワーゾーンだな。あそこはトルクの高いパワー系モーターが有利そうだ」


「ほうほうなるほど、パワーが大事と」


「そこから一気に高低差を駆け下りる加速ゾーンに、さらにその加速を生かして突っ込む2連続の縦回転のエリアもポイントかな」


「あれすごいよね、ジェットコースターみたいにグルグルって2回転!」

「速さが足りないと多分2回目が登りきれないと思う」


「なるほどね、パワーに加えてスピードも大事と……ってか、そんなの当たり前じゃん! わたしでも言えるし!」

「いやいや続きがあるんだよ」


「続き?」


「俺が見た一番のポイントは中盤のヘアピンカーブだ。スピードに乗り過ぎると派手にコースアウトするだろうから、最高速を上げ過ぎないように調整する必要がありそうだ」


「あはは、修平くんって結構詳しいんだね。っていうか声がいつもより弾んでる気がするかも? 男の子ってやっぱこういうの好きだよねー。男の子のロマンってやつ?」


「そうだなぁ。教室一面使った大きなコースを見せられると、小学生の頃に戻ったみたいでどうしようもなく心が沸き立ってくる気がするな」


「ふーん、やっぱりそうなんだね」

「やっぱりって?」


「ほら、このクラスは小さな男の子連れた親子連れが多いでしょ? しかもなんとなくお父さんのほうが楽しそうな気がしたのは、わたしの気のせいじゃなかったんだなぁって」


「これだけでかいコースは公式大会とかにでも行かない限りは、まずお目にかかれないからな。世のお父さん方もつい子供心に戻っちゃうんだと思うよ」


「つまり出し物としては大成功ってことかな? じゃあそろそろ次に行こう……って、どうしたの修平くん?」


「じゅ、10分だけやっていってもいいか? ミ〇四駆と簡単なセッティングキットを貸し出ししてくれるらしいんだよ。俺もこのコースを実際に走らせてみたいんだ」


「あはは。全然いいけど、そんなに好きなんだね」


「なんかこう心の奥のワクワクがどうにも抑えられないっていうか、小学校の頃にミニ〇駆をやった記憶がありありと浮かんできてだな……」


「別に言い訳しなくてもいいしー? あ、ならせっかくだし2人で競争しない? 負けた方は今度ジュースおごりで」


 挑戦的な目をしたハスミンが、そんなことを言ってくる。


「ほぅ、『絶対不敗の最強勇者』と言われたこの俺に挑もうとは、なかなか度胸があるじゃないか。その勝負、受けて立とう」


「あはは、なに勇者って。しかも絶対不敗って。修平くんって普段は冷静沈着で真面目なのに、時々唐突に面白いこと言うよね」


「意外とな。でもハスミンってミ〇四駆の経験はあるのか?」


「ないよ? 触ったこともないし。でもオモチャの車をコースに走らせるだけでしょ?」


「それがそんなに簡単なもんじゃあないんだよな」


「ふーん、そうなんだね。なんとなく簡単そうに見えるんだけど」


「ハスミンもやってみれば分かるさ。特にこのコースはテクニカルだから完走するだけでも難しいと思うぞ?」


「ええっ、そんなに?」


「ほら、今も立て続けに2台コースアウトしただろ?」


「わわっ、ほんとだ」


「賭けるのはやめにしとくか?」


「ううん、やる。せっかくレースするんだもん、賭けたほうが楽しいでしょ?」


 にへらーと楽しそうな顔のハスミン。


「実はギャンブラー気質なのか? でもその意気込みや良しだ。好きなだけチューンナップしてかかってくるがいい」


「はーい! じゃあ……わたしはこの綺麗なピンクのミニ〇駆にするね。セッティングはどうしようかな~。うん、まずはタイヤ変えよっ。この黒色のホイールは差し色にしたらいい感じに似合いそうだから」


 ハスミンは貸し出しコーナーでマシンを選ぶと、楽しそうにセッティングを始める。


 しかしそれは色を見て選ぶというセッティングというにはあまりにお粗末な、素人でもやらないような「お遊び」だった。


 くくく、ハスミン。

 そうやって楽しく笑っていられるのも今のうちだぞ?


 ミ〇四駆ってのはな、そんな簡単な競技じゃないんだ。


 足の速さがステータスな男子小学生にとって、速さを競うミニ〇駆はいわば自分の分身が戦っているようなものなのだ。


 なにせ速いやつがカッコいい。

 そんな男の子のプライドとプライドが激突するガチバトルに、ミ〇四駆素人で女子のハスミンがついてこれるかな?


 なにより俺は魔王を倒し異世界『オーフェルマウス』を救った伝説の勇者なんだぞ?


 異世界に渡って5年間負け知らずだった常勝無敗の絶対勇者シュウヘイ=オダの本気走りを、とくと見せつけてやるぜ――!

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