第25話 文化祭デート(3)
…………
……
えー、負けました。
「はい、わたしの勝ちー。今度ジュースおごりねー♪」
「ば、バカな……この俺が負けるだなんて……」
俺は異世界『オーフェルマウス』を救った、常勝無敗の絶対勇者シュウヘイ=オダなんだぞ?
常勝無敗ってことは、つまり負けたことがないんだぞ?
なのに初めてミ〇四駆を触った素人の女子に負けるだなんて……。
おかしいなぁ? あれぇ?
「も、もう一回だけ……なにとぞもう一回だけ対戦を……。この通り! どうかお願いします!」
恥も外聞もかなぐり捨てた俺は、大きく頭を下げて2本目のレースをお願いした。
「別にいいけど、わたしが勝ったらジュースもう1本おごりだからね?」
「もちろんだ! 2本でも3本でも奢ってやるよ!」
…………
……
えー、あー、その。
追加の1戦もサクッと負けました。
おかしいなぁ……?
「つ、次で最後だから。な、頼む。もう1回だけやらせてくれ! これで最後にするから、な、な!? いいだろハスミン? もう1回だけでいいから最後に1回やらせて欲しいんだ! これで最後にするから! 最後に俺に思い出をくれ!」
「もうしょうがないなぁ。じゃあ最後のレースもわたしが勝ったら、駅前のカフェのケーキセットおごりね?」
「おうよ、全然いいぞ!」
「やったぁ!」
もはや勝った気でいるハスミン。
(だが悪いが次に勝つのはこの俺だ――!)
この2戦、俺はただ負けたわけではなかった。
しっかりと負けた原因を分析していたのだ。
俺の分析はこうだ。
今までの2戦では、俺はマシンのトップスピードを必要以上に抑えてしまっていた。
学園祭だからこその、この要素詰め込みまくりの超テクニカルコースに完璧に対応することにこだわり過ぎてしまったいたのだ。
その結果、俺のマシンは難コースを完走こそしたもののイマイチスピード感に欠けており。
逆に、特に深く考えずに適当にモーターやタイヤを変えただけで、偶然セッティングがコースにピタッとドンピシャでハマっただけのハスミンマシンに、後れを取ってしまったのだ!
策士策に溺れるを地で行ってしまった。
しかしローラーのセッティングすらしていないお遊びセッティングだけあって、ハスミンマシンは決して安定して速いわけじゃない。
上下にでこぼこするウェーブセクションでほぼ直角の90度近くまで後輪が跳ね上がってたいたし。
きついコーナーではタイヤが壁に乗り上げるくらい外側が大きく浮いたりと、危うい挙動がいくつもあった。
色んな所で大きくタイムロスをしていたのだ。
それでもドンピシャでコースにハマっているおかげで、奇跡的にそこそこのタイムでクリアしちゃっているだけなのだ。
(ポイントは中盤のきついヘアピンコーナーだ。ここをギリギリ抜けられるスピードを意識してセッティングをすれば、ギリギリのところでたまたま偶然クリアしてるだけのハスミンマシンになら余裕で勝てる――!)
というわけで。
俺は今度こそ、最後の最後の一戦に臨んだ。
完璧な分析と隙のない理論に基づいた究極セッティングを施した俺の絶対無敵勇者マシンは、序盤からハスミンマシンにリードを保って圧倒的に優位にレースを進めていく。
(ふぅ、これは勝ったな。わずかたりとも負ける要素が見当たらない)
快調にリードを広げていく絶対無敵勇者マシンを見て、俺は勝利を確信していた。
──が、しかし。
ポイントとしていたヘアピンコーナーで悲劇は起こった。
俺の絶対無敵勇者マシンが一瞬何かを踏んだようにフロントを小さく跳ねさせたと思ったら、その直後。
コーナーを曲がりきれずに無情にもコース外へと吹っ飛んでいったのだ――!
「コースアウトだと!? そんなバカな!?」
コース脇で上下逆さまにひっくり返った絶対無敵勇者マシンは、キュルキュルキュルともの悲しいタイヤの空転音を響かせ続ける。
その脇をハスミンマシンが悠々と走り抜けていった。
「はい、またまたわたしの勝ちねー。ケーキセットだからねー。忘れないでねー」
「はい……」
目の前の現実を受け入れるのが辛かった。
俺は敗北したのだ。
それも完膚なきまでに、これ以上ない完全敗北を喫したのだ。
もちろん言い訳はある。
あのコーナーで何かを踏まなければ――小さな小さな段ボールの切れ端でもあったのだろう――俺はあのまま勝っていたはずだ。
だがしかし何を言っても負けは負け、結果は変わらない。
俺の絶対無敵勇者マシンは無残にコースアウトし、ハスミンマシンは三度目の完走をしたのだから――。
「これはもうあれだな。ハスミンはミ○四駆の女神に愛されてるんだな……そう思わないとやってられない……」
俺が勇者として5年に渡って積み上げてきた常勝無敗の不敗神話は、今日この瞬間をもってひっそりと幕を閉じたのだった。
こうして。
異世界『オーフェルマウス』を救った最強の勇者は、ただの一度も勝利を手にすることができず。
最後は完走すらできずに3連敗を喫し、深い悲しみの沼に沈んだのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます