第26話 トラブル発生(1)

「男子ってほんとミ〇四駆好きだよね。いつもクールな修平くんがあんなに熱く語ったりムキになるの初めて見たかも、ふふっ」


「散々偉そうなこと言っておきながらコテンパンに負けたのがカッコ悪くて、ついな……」


 しかもそれでもやっぱり勝てなかったとかダサすぎるにもほどがあった。


「あはは、別にカッコ悪くなんてないと思うけど。なにかに一生懸命なのって見ていて気持ちいいし、わたしは好きだなぁ」


「え?」


「え? って、ほえっ!? あ! ち、違うし!?  今の好きっていうのはそう言うことじゃないんだからね!? あくまでただの一般論であって、その! わ、わたしが修平くんのことが好きとかそう言うんじゃないんだからねっ!」


 ハスミンが顔を真っ赤にしながら超早口でまくし立ててきた。


「もちろん分かってるよ」


「そりゃ別に嫌いってわけじゃ全然ないし、どっちかって言うと好き寄りだけど……」


「ごめん、声が小さくて良く聞こえなかったんだ。今日は人が多くて周りがガヤガヤしてるからさ」


「なんにも言ってないでーす! おごってくれる約束忘れないでねって言っただけでーす!」


「いや言ってるだろ? もちろん忘れてないよ。実はこの前バイト代が入ったからな。懐具合には余裕があるんだ」


「あれ、修平くんバイトなんかしてたんだ。全然知らなかった。何のバイト?」

「翻訳だよ」


 窮屈になった冬服の制服を買い替えるためにちょっと前から始めていたのだ。


「コンニャク? 農家のお手伝いってこと? コンニャクってたしかお芋さんだよね? 芋掘りしてるの?」


「コンニャクじゃなくて翻訳な。最近はほら、クールジャパンとか言って海外展開が当たり前だろ? 小説とかを向こうの言葉に翻訳するんだよ。かなり割がいいんだぞ」


「なにそれ! 超すごすぎない!? わたしたちまだ高1だよね!?」


「まぁな。得意分野を生かさせてもらった」


 女神アテナイの加護によって、俺はどんな言語もネイティブレベルで使いこなすことができる。

 そんな俺にとって日本語を英語に訳すことは、日本語をそのまま書き写すのと全く変わらない。


 なんならドイツ語でもスペイン語でもロシア語でもなんだっていける。


 その超絶チートスキルを活かしてとある大手K出版社に、出たばかりの小説を1冊丸々英訳・ドイツ語訳・スペイン語訳、ついでにロシア語に翻訳して送り付けたら、即返事が来て採用になった。


 その最初の報酬がこの前振り込まれたのだ。

 ちなみにかなりの金額だったんで、両親も「は?」って顔をしていた。



 そんな風にハスミンと楽しく他のクラスを回りながら、特になにかトラブルがあるでもなく文化祭は順調すぎるくらい順調に進んで行ってたんだけど――。


「あれ? メイから電話だ。ラインじゃなくて直接電話なんてどうしたんだろ? ごめんね修平くん、急ぎの用かもだからちょっと電話に出ていいかな?」


 スマホを取り出したハスミンが、通知を見てちょっと不思議そうな顔をした。


「全然いいよ。気にしないで」


 俺はそう言うとハスミンから少し距離を取ろうとして、でも結構人の流れがあったたので諦めて、人の流れの邪魔にならないようにハスミンと並んで壁際に寄る。


 会話を盗み聞きするのは悪いと思ったんだけど、今日の校内は人が多いから仕方ない。


 一応顔だけは遠くに向けておいた。

 それでもどうしても聞こえちゃうんだけど。


「急にどうしたのメイ? なにかあったの? ……え、うそ!? 指を怪我しちゃったの? 突き指? 子供に後ろから押されてこけたって、それちゃんと保健室とか行った? 大丈夫? ううん、そんなの全然いいから、それよりメイの怪我が大したことなくて良かった。うん、うん……分かった。でも無理はしないでね、とりあえずすぐ合流するから、うん、うん。じゃあね」


「どうしたんだ、トラブルか?」

「あ、うん。ちょっとね」


「メイって新田さんのことだよな? 確か午後から体育館で、ハスミンと一緒にバンドするって言ってた」


「うん……」


 文化祭ではクラスの出し物や部の出し物とは別に、個人出演の部がある。


 そこでハスミンがベース・ボーカル。

 ハスミンの仲良しグループの新田さんがギター。

 あと別のクラスのキーボードとドラムの女の子の4人組のガールズバンドで演奏をすると言っていたのだ。


 4人は中学時代からの音楽仲間なんだそうだ。

 せっかくのハスミンの晴れ舞台だから、俺も見に行こうかと思ってたんだよな。


「新田さんはギターなんだよな? 指を怪我したって言ってたけどそれでギターって弾けるのか?」


「それを今から確認しに行こうかなって思って……でも利き手って言ってたから多分無理だと思う……」


 ハスミンが沈んだ顔を見せた。


 まぁなんだ。

 ギターのないバンドってのはちょっと考えられないもんな。


(ってことはこのままだと高確率で出場を辞退することになるんだろう)


「俺もついて行っていいか? なにか力になれるかもしれないし」

「うん……メイは保健室にいるみたいだから一緒に来てくれる?」


 俺たちは急ぎ、新田さんがいる保健室へと向かった。

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