第27話 トラブル発生(2)

 俺がハスミンと一緒に保健室に行くと、そこには右手の人さし指を器具で固定した新田さんと、同じく連絡を受けてタッチの差で先に到着していたバンドのメンバーの女子2人がいた。


「メイ、指はどんな感じなの? ライブは――って聞かなくても固定されてるから無理だよね」


「ごめん、ケガ自体は大したことなくて3,4日もしたら痛みは取れるって言われたんだけど、今は指が全然曲がらなくて今日ギター弾くのは……」


「そっか」


「ごめんねみんな。せっかく夏休みもいっぱい練習したのに。私のせいで出れなくなっちゃって……」


 新田さんはそう言うと大きく頭を下げた。

 動きに合わせて後ろに縛った長い髪がさらりと前にこぼれる。


「もうメイってば、そんなの謝ることじゃないでしょ?」

「そうそう、もらい事故だったんだししゃーないよ」

「文化祭は来年だってあるんだから。また来年みんなでやろうよ」


 そんな新田さんを、ハスミンたち3人が囲むようにして抱きしめた。


「みんな……ありがとう……」


 責められるどころか、逆に3人に抱きしめられながら笑顔で言われた新田さんの顔が嬉し涙でいっぱいになる。


(いいなぁ、青春だなぁ)


 中学校時代からの音楽仲間という4人の絆をまざまざと見せつけられた俺は、心の底からそれを羨ましく眺めていた。


 小学校5年生くらいでそうと自覚して以降、中学時代もずっと陰キャだった俺にはこういう深い友人関係は全く存在しなかった。


 陰キャあるあるの1つにして究極の『青春の色はただただ灰色』だ。

 青春と書いてグレーと読む。


(でも今年は俺もクラスの出し物にガッツリ関わったし、ハスミンと一緒に文化祭も回ったし。そう考えると今の俺って、青春の真っただ中にいるんだよな)


 ロボのコスプレをした智哉が『俺こんな楽しい文化祭は生まれて初めてだよ』ってすごく喜んでくれた。

 でもそれは俺自身も同じだったんだ。


 内心そんなことを考えていた俺をよそに、4人の仲良し女の子たちはすっかり明るい様子で話し始める。


「来年は2年分の練習の成果を見せつけちゃおうね。っていうか2年越しライブとか結構良くない?」

「あっ、ハスミンいいこと言うじゃん。座布団10枚!」

「ほんとほんと、さすが男子と文化祭デートしてるだけはあるよね」


「ちょ、修平くんとはそんなんじゃないから!」

「ええ? だってこの前練習の時にハスミン言ってたよねー」

「ねー!」


「何を言ってたんだ?」

 会話の流れ的になんとなく俺のことっぽかったので口を挟むと、


「こっちの話だから修平くんには関係ありません!」

 ハスミンになぜかキレ気味に言われてしまった。


「お、おう、すまん」


「うわっ、今の見ました奥さん?」

「見ました見ました。普段は滅多に怒らないホトケのハスミンが、キレた振りして露骨に話を逸らしましたよ?」


「しかも修平くんって呼ぶんだよ?」

「きゃー、ラヴい~」


「ラヴくないです!」


「ハスミン照れてる、可愛いー」

「私も男子を名前で呼びたいなぁ」


「うるさいしもう! はい、もうこの話は終了なんだからねっ! じゃあ今から運営の人に辞退するって伝えてくるから。行こっ、修平くん」


 そう言って逃げるように保健室を出ていこうとするハスミンを、


「その件なんだけどさ」

 俺はすぐさま呼び止めた。


「どうしたの?」

 突然呼び止められて不思議そうな顔で振り返ったハスミンに、俺は言った。


「あのさ、提案っていうかもし良かったらなんだけど」

「なぁに?」


「実は俺ってギターが弾けるんだよ。だから新田さんの代わりに俺がギターやれないかなって思ってさ」

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