第14話 体育の授業で無双する。(2)

「なぁ織田、お前バスケやってたのか?」


「いえ、体育の授業以外ではやったことはありません」


「とてもそうは見えなかったが……実は運動神経が良かったんだな。1学期はそうでもないと思ったんだが、俺が見落としていたか」


 首をかしげる体育の先生。

 これも陰キャあるあるの1つ『意外と先生はしっかり見てくれている』だった。


 もちろん先生は仕事として生徒全員の成績をつけないといけないから、陰キャであろうと見ているのは当然といえば当然なんだろうけど。


 それでも生徒の間ではとかく影が薄く名前すら忘れられることもある陰キャとしては、ちゃんと一人の生徒として見てもらえていることが地味に嬉しいっていうか。


「夏休みに一念発起して身体を鍛えました。その成果だと思います」


 怪訝な顔をしている体育の先生に、俺はもはや定番となった言い訳で答える。


「そうだったのか。やる気があるのは良いことだぞ、この調子でがんばれよ。このまま真面目にやれば通知簿は5をやるからな」


「ありがとうございます、期待に応えられるよう頑張ります」


 その後も俺は魔王との戦いで培った運動能力をいかんなく発揮してバスケで無双した。



「なぁ織田」

 そんな俺に授業が終わってすぐ、爽やかイケメン陽キャの伊達くんが話しかけてきた。


「なんだ?」

 恨みごとでも言われるのかと思ったら、


「マジすごかったなお前! なぁなぁ、今からでもバスケ部に入らないか? お前なら速攻でレギュラー間違いなしだぜ! つーかなんだよあれ、完全に高校生のレベルを越えてたぞ!? エアウォークとかNBAプレーヤーかよ!?」


 伊達くんはまるで自分のことであるかのように嬉しそうな顔をして、早口で捲し立てるように言ってきたのだ。


 そう言えばそうだったな。


 伊達くんはイケメンで背が高くて、スポーツもできてバスケ部の1年生レギュラーで。

 さらにはちょっと勉強が苦手なところが、またそれはそれで魅力と女子から評判で。

 しかも誰にでも分け隔てなく優しくて面倒見がいいから、男子からも頼りにされていて。


 つまり男女問わず誰からも好かれる好青年な正義の陽キャなんだった。


「あーごめん、俺は部活はしないことにしてるんだ」


「そうなのかぁ。それだけ動けるのにもったいないなぁ」


「せっかく誘ってもらったのに悪いな」


 ちなみに部活をやらないのは俺が負けず嫌いだからだ。


 異世界に行く前は陰キャらしく、何かで負けてもヘラヘラ愛想笑いしながら「俺ならこんなもんだろ?」って流すような性格だった。


 でも勇者として絶対に負けられない戦いを続けていくうちに、自然と勝ちにこだわる性格に変わってしまったのだ。

 そうならざるを得なかったというか。


 なので体育の授業程度ならまだしも、公式戦とかで負けそうになったら俺は絶対に勇者スキルを使ってしまう。


 俺が持ってるものを使って何が悪いんだって言い訳して絶対に使う。

 賭けてもいい。


 だけどさすがにそれはちょっとダメかなって思うんだよな。

 なので熱くなる勝負事は、最初からやらない方がいいと考えていた。


「いやこっちが勝手に言っただけだから気にすんな。でもマジですごかったぞ。すげージャンプ力だったし、反応とかも早すぎてガチでびびった」


「伊達くんもたいがいスゴかっただろ? さすが1年生レギュラーだと思ったよ」


「サンキュー。あああと伊達でいいぞ」


「じゃあ伊達って呼ぶな」


 俺は伊達と仲良く話しながら教室に戻る。

 ついでに連絡先も交換した。


 さらには伊達の知り合いである陽キャ男子たちの連絡先までゲットする。


 図らずも異世界から帰還わずか数日で、クラスカーストトップの男子・伊達と女子・ハスミンと連絡先を交換することになった俺だった。


(うん、俺の新たな学園生活は極めて順調だ。この調子でリスタートしたスクールライフを楽しもう)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る