第15話 スイーツの女王

 それからも充実した学校生活が続いて、9月半ば。


 俺とハスミンはクラス委員と副クラス委員として、放課後1時間ほど先生のお手伝いをした後、一緒に学校を出た。


「あーあ、やっぱクラス委員の仕事ってめんどくさいかも」


 ハスミンがちょっと投げやり気味に呟いた。


「ハスミンの用事があったり気分が乗らない時は言ってくれたらいいぞ。そういう時は俺が一人でやるから」


「気分が乗らない時って、さすがにそれは悪いでしょ?」


「別に俺はそういうの気にしないから休みたい時は言ってくれ。俺はこれくらいじゃ全然疲れないし」


「さすが鍛えてるだけあって言っちゃうね? この俺に任せろみたいな?」


「そうでなくとも身体の仕組みからして、男子の方が女子より体力があるしな。だから何かあったら気にせず言ってくれていいよ」


「あはは、ほんと変な人だよね修平くんって」


「? 今のは割と普通の会話だったと思うんだけどな?」


 なにか変なところあったけか?


「うーんそうだね。変な人っていうか大人びてるっていうか? ほら、この前だって部活で忙しい伊達くんの係の仕事を代わってあげてたでしょ?」


「俺は放課後暇だからな。でも伊達は1年でバスケ部のレギュラーだろ? 1年の雑用をやりつつ先輩に交じって練習しないといけないから、すごく忙しいだろうと思ってさ」


「へぇ、バスケ部見に行ったりしてるんだ? そう言えば最近伊達くんと仲いいもんね」


「いや部活を見に行ったことはないよ」


「あれ、そうなんだ? じゃあなんで伊達くんが雑用やってるってわかるの?」


「同じ1年の部活仲間から嫌われてないから、雑用サボってないってのはある程度想像はつくかな。レギュラーだからって特権みたいに雑用をさぼってるやつは、絶対に同級生から嫌われるから」


「なるほど納得だね。でもなんていうか、修平くんってかなりのお人好しだよね?」


「どうかな? 俺としてはお人好しっていうよりか、自分でやれることは人任せにせず自分でやりたい性格だとは思ってるけど」


 異世界『オーフェルマウス』は魔王との大戦争で世界的にギリギリのボロボロだった。

 だから人類の切り札である勇者の俺へのサポートですら、足りてないところがよくあったのだ。


 だからやれることは何でも自分でやるようになったし、俺の手が空いてるなら代わりにやるってのも身体に染みついちゃったんだよな。


 リエナも高位神官って肩書きの割に、森で食べられる木の実を見分けたり、薬草を摘んだり、野営の時に自炊したり。

 他にも馬車の御者をしたり、空模様から天気を予想したり、偽金貨を見破ったりとほんとなんでもマルチにこなしてたし。


(そうそう、異世界転移した最初の俺は何もできなくて大変だったんだよな。米を炊いて下さいってリエナに言われて、炊飯器はどこにあるんだって聞き返したのはいい思い出だ。もちろんあっちの世界に炊飯器なんて文明の利器はありはしない)


「そうなんだ。ほんと修平くんは大人な感じだね」


「褒めてるんだよな?」


「もちろんだし。すごく頼りがいあるもん。みんな言ってるよ。そうだ、ねぇねぇ。せっかくだし寄り道していかない?」


「今からか?」


「明日学校休みでしょ? せっかくだからクラス委員と副クラス委員の親交を深める会をやる的な?」


「そう言われると断る理由はないかな」


「じゃあ駅前のカフェに行こうよ。実はね、ケーキセットの半額クーポンがあるんだ。しかも2人分、どやぁ!」


「さすがハスミン、甘い物には目がないスイーツ女王の異名は伊達じゃないな」


「ちょっとやめてよね、それじゃわたしが大食い女子みたいじゃん。っていうか誰が言ってるのそれ? もしかして修平くん適当に言ってない?」


 ハスミンは笑いながら言ったんだけど、


「新田さんだよ」


 ハスミンと同じグループでいつも仲良さそうに話している新田さんが、たまたまそう言ってたのを聞いてたんで、俺が正直に発言者の名前を言うと、


「…………」


 ハスミンは笑顔一転、黙り込んでしまった。


(げっ、しまった。どうやらハスミン本人はこの呼び名をご存じなかったらしい。新田さんも馬鹿にするような感じじゃなかったから、当然本人公認だと思ってたのに)


「一応言っておくけど、馬鹿にするよな感じじゃ全然なかったからな?」


「う、うん……」


「あと俺は甘い物が大好きだから、今日誘ってもらえて最高に嬉しいぞ?」


「うん……」


「ってことで早く行こうぜ、なっ?」


「あの、修平くんって大食いの女の子は……嫌い?」


「そんなことはないぞ。むしろよく食べて元気な子が好きだな。っていうか急にそんなこと聞いてきてどうしたんだよ?」


「ううん、なんでもないしー? ほら、早く行こっ!」


「お、おう?」


 最後に若干ちょっと微妙な失言をしてしまったものの、いつのまにかハスミンは笑顔になっていて。

 なので俺たちは和気あいあいと目的である駅前のカフェへと向かった。

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