第16話 2つのケーキセット

 オシャレな看板を横目に、案内された4人席にハスミンと対面で座る。

 真ん中にメニューを置いて、2人でのぞき込むように見ていった。


「うわっ、今日限定で秋の新作ケーキ候補が2つもあるんだって。しかもどっちも半額クーポン対象だし」


「ハスミンの日頃の行いが良かったんだな」


「うんうん、さすがわたしだよね。でもでも、どっちにしようかなぁ。トリプルベリーケーキも、和栗モンブランもどっちも美味しそうだし。うーん、悩む……」


 ハスミンが人生の岐路に立っているかのごとく真剣な顔で悩み始めた。


「ならいっそのこと両方頼むとか?」


「あはは、さすがにそれはね。カロリーが気になっちゃうし」


「じゃあ2人で1個ずつ頼んで、半分こするってのは?」


「え、いいの?」


「俺は全然構わないよ。それにそうしたら俺も2種類の新作ケーキが食べれるだろ? 俺もどっちにするか悩ましいところだったんだよ。どっちも美味しそうだからさ」


「修平くんが甘いものが好きって本当だったんだね」


「もちろん本当さ、ケーキならいくらでも食べられるぞ?」


(なにせ向こうの世界じゃ、甘いものは滅多に食べられなかったから)


 甘いものよりも栄養価のあるものや、腹の膨れるものの生産が優先されていた異世界『オーフェルマウス』では、砂糖はかなりの高級品だった。


 だからさっきケーキセットの半額クーポンと聞いて、実は俺も内心小躍りしそうになったのだ。


「じゃあ2人で1個ずつ頼んで半分こね?」


「ああ、そうしよう」


「すみませーん、注文でーす」

 ハスミンが手を上げてフロアスタッフを呼ぶ。


「えっと、新作の3種のベリーケーキセットと和栗モンブランのセットを1つずつで。ドリンクはホットの紅茶をストレートで。修平くんは?」


「俺はアイスコーヒーで、ミルクと砂糖を1つずつお願いします。注文は以上で」


「かしこまりました。3種のベリーのセットと和栗モンブランのセットをお1つずつ。ホットの紅茶とアイスコーヒー、ミルクと砂糖はお1つずつですね。少々お待ちくださいませ、すぐにご用意いたします」


 フロアスタッフのお姉さんは流れるように復唱すると、一礼して上品に去っていった。


(こう言うところは日本はほんと丁寧だよな)


 異世界『オーフェルマウス』ではこれだけ丁寧な対応をされるのは、王宮に行くか王侯貴族の屋敷にでも呼ばれない限りはありえなかった。

 ほんと平和っていいよなぁ。


 その後、ハスミンと学校であったこととかをダベっていると、すぐにケーキが運ばれてくる。


 ハスミンが和栗モンブランに早速フォークを差して口に運んだ。


「いただきまーす……ん~~美味しい! 濃厚な栗の味」


「それは良かったな」


 満足そうなハスミンの笑顔は本当に幸せそうで、見ているだけでこっちまで幸せになりそうだ。


「あれ? 修平くんは食べないの?」


「俺が先に手を付けるとハスミンは嫌かなと思ってさ」


「え……? あ! えっと、あの、えへへへ……そういうことね。あ、それじゃあさ、もういっそのことこうしない?」


 なぜかハスミンが急に背筋を伸ばした。

 しかも顔が真っ赤になっている。


 このお店は結構エアコンが効いて快適だと思うけど、ハスミンは結構暑がりなのかな?


「どうしたんだ? 暑いのか?」


「違うし! こほん、ちょっと待ってね」


 そう言うとハスミンは和栗モンブランを小さく切るとフォークで刺した。

 それを俺の顔の前まで持ち上げると、


「は、はい、あーん」


 なぜか左手を下に沿えながら俺に差し出してきたのだ。


 意図を察した俺はそれをパクッと咥えた。


「うん、美味しいな。栗の旨味が甘さに負けてない。上品な栗の甘さがすごく美味しいよ」


「……なんか意外と躊躇なく食べたね? なんていうかちょっと想定外っていうか。もしかして修平くんてこういうの慣れてるの?」


 和栗モンブランをしっかりと味わってから感想を言った俺に、なぜかハスミンがジト目を向けてくる。


「いや初めてだよ。単に物おじしないだけ」


 何度も言うけど、俺は異世界で魔王を倒す命がけの旅を5年もやったのだ。


 異世界転移前の陰キャ時代ならまだしも、あーんしてもらって恥ずかしがるような豆腐メンタルはとっくの昔になくなっていた。


「ほんとかなぁ?」


「ほんとだってば。それに嬉しかったしな」


 でもだからといって、嬉しいとかそういった感情がなくなったわけじゃない。


「あ、うん、嬉しかったんだ……」


「そりゃ嬉しいよ。俺も男だからな。可愛い女の子にあーんしてもらったらそりゃ嬉しいに決まってる」


「可愛いって……」


「事実だろ? ハスミンはかなり可愛いと思うぞ」


「だからそういうこと平然と言っちゃうし……修平くんのばーか」


 とか言いながらまんざらでもなさそうに、もう一度きり分けた和栗モンブランを差し出してくるハスミン。


 緊張して顔を赤くしながらおずおずと差し出すところが、なんていうか素直に可愛いと思った。


(こういう感情を平和に持てるってやっぱ日本はいい国だよ。しかもハスミンは可愛いし)


 そんなことをしみじみと思いながら、俺はハスミンとケーキセットを食べさせ合いっこしたのだった。


 ちなみにこの日以来、俺とハスミンはいい感じの仲というか、付き合ってはないんだけど頻繁に一緒に帰ったりするようになった。



―――――


 『帰還勇者のRe:スクール(学園無双)』をお読みいただきありがとうございます!


 これにて第1章が終了です。


 続いて「第2章 文化祭編」がスタートします。

 この後も読み進めていただければ嬉しいです!


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