第2章 文化祭

第17話 文化祭準備(1)

 異世界から帰還し、実に5年ぶりとなる高校生活にもだいぶん慣れてきただしたころ。


 クラス委員の俺は担任の先生に代わって教卓に立ち、ホームルームの司会進行をしていた。

 文化祭のクラスの出し物を決めるためだ。


「今から文化祭でうちのクラスが何をするか、クラスの出し物を決めたいと思います」


 俺の言葉を聞いて、お祭り好きな陽キャグループメンバーたちを中心に、


「おおっ!」

「なんにする!?」


 俄然盛り上がるクラスメイト達。


 しかし俺はそんなクラスメイト達に悲しい事実を告げなければならなかった。


「期待しているところ申し訳ないんだけど、うちの学校は普通の公立高校なんで派手なことは基本的に無理なんだ。ちょっと自由度が高くなるくらいで、多分中学の文化祭の延長みたいなものになると思う」


「ええっ!?」

「そんなぁ!」


 失望した声がさざ波のようにクラス中に広がっていく。

 だがまぁこれに関しては俺に決定権はないので、俺としてはどうしようもなかった。


「クラスの出し物に予算はほとんどつかないから、でかい出し物とかはやりようがないんだよ」


 異世界を救った勇者の俺とはいえ、できないことはできないのだ。


「じゃあじゃあお化け屋敷とかは? あんまりお金はかけないようにしてさ」

「おっ、いいな!」

「文化祭の定番だもんな!」

「窓に暗幕とか張るんだよな」


「悪い、お化け屋敷は禁止だそうだ」


「禁止!?」

「はぁっ!?」

「なんでだよっ?」

「ねぇねぇ織田くんなんで~?」


「他にもプラネタリウムとか部屋を暗くする出し物は禁止になってる。昔、痴漢騒ぎがあったかららしい」


「嘘だろ!?」

「マジかよー!」

「痴漢とか女の敵だし!」

「電車でもやたらと身体くっつけてくるキモイおっさんとかいるよね!」

「痴漢マジ死ねばいいのに!」

「だよね!」


 痴漢に対する女子たちの歯に衣着せぬ猛烈な批判を見て、男子たちが一瞬で静かになった。

 ま、あらぬ疑いはかけられたくないもんな。


「なら飲食は?」

「お、いいな!」

「飲食も定番だよね」

「メイド喫茶やろうぜ!」

「私もコスプレ喫茶とかやりたい!」

「ウェイトレスの制服とか可愛いし、一度着てみたいよね!」

「ねぇ織田くん飲食は~?」


「コスプレの衣装代は出ないから、そこを自費で賄えるならできるかな?」


「うえ、そこが自腹かぁ」

「あー、私今月お小遣い厳しいかも」

「俺もー!」

「っていうかこの学校ケチ過ぎね?」

「言うて公立だからなぁ」


「ちなみに大きめのホットプレート1枚と2リットルの電気ポット1個、クーラーボックス1個、あとは延長コードとかのこまごまとした物は学校の出入りの業者から無料で借りられるから安心してくれ」


「ほんと最低限って感じだね」

「まぁないよりはいいんじゃね?」

「じゃあとりあえず飲食な!」

「さんせー!」

「なら、たこ焼き器とか持ってきたらいいんじゃね? うちにあるよ? 一気に23個焼ける大きなヤツ!」

「なんでそんなもんが家にあるんだよw」

「うち両親どっちも大阪出身だから」


「ああ、たこ焼きは完全に禁止だ。要綱にたこ焼き厳禁と明記されてる」


「は? え?」

「どゆこと?」

「なんでたこ焼きが禁止なの?」

「せっかくたこ焼き器あるのに」

「ねー織田くんなんで~?」


「かなり昔の、衛生観念がまだ超適当だったころの話らしいんだけど、うちの文化祭のたこ焼きからサルモネラ菌が出て集団食中毒が発生して、テレビや新聞で日本中に派手に報道されたかららしい」


「はぁっ!?」

「また先輩らのせいかよ!?」

「ないわー」

「この学校の先輩ら終わってんだろマジで!?」


「ついでに言っておくと、学校が貸し出すその3点の調理器具以外を持ち込む場合は、事前に申請書を出して文化祭実行委員会の許可を取らないといけないことになってる。当然許可が下りないこともある、というかほとんど下りないらしい」


「うわ、めんどくせぇ……!?」

「しかもほとんど許可が下りないとかなんなの」

「これって過去に先輩方がやらかし過ぎたせいで、生徒が信用されてないんだろうなぁ……」

「マジないわー」

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