第18話 文化祭準備(2)

「あとコンロとかバーナーとか、火が出るものはそもそも持ち込み厳禁だそうだ。これも何年か前にボヤ騒ぎがあったかららしい」


「また俺らの先輩のせい……?」

「ほんとなんなのうちの先輩ら……」

「まったく同感……」

「歴史が古いだけあって、色々やらかしやってたんだなぁ……」

「うちって実は問題校だったのかよ……」


 戦前の旧制中学校の流れをくむうちの高校は、今や進学実績は見る影もないただの普通の公立高校だが、歴史と伝統だけはものすごい。


 でもその分だけ過去にいろんな問題をやらかしていたようだった。


 俺もその辺りのことはほとんど知らなかったんだけど、クラス委員としてハスミンと文化祭実行委員会に出席した時にあれこれ聞かされていた。


「つまり過去に先輩方が色々やらかすたびに禁止事項が増えていって、今に至るみたいだな。以上の前置きを踏まえた上で、何か案がある人がいたら言ってくれないかな?」


「「「「…………」」」」


 俺の問いかけに、しかしクラスメイト達は一様に黙り込んでしまった。

 がっくりと肩を落として、見るからに意気消沈している奴らもいる。


 いまや当初のモチベーションは完全に失われ、悲しみの沈黙がクラス中を支配していた。


(しまったな、ちょっと段取りをミスったか。完全にみんなのやる気をそいでしまったぞ)


 話の流れとはいえ、みんなの発言を否定するばっかりになっちゃったもんな。


 人は自分の意見や行動を否定されるとどうしても気持ちが弱くなる。モチベーションが下がる。

 そしていったん気持ちが弱くなってしまうと、また否定されると思って次の行動を起こさなくなるものなのだ。


 かつて陰キャというその典型ともいえる存在だった俺は、そのことを身をもって理解していたはずなのに。


(まず最初にたくさん案を出してもらってから、そこからダメなのを消していった方が良かったな)


 完全に司会進行を失敗した俺が、クラスメイト達としばらく無言のやり取りを続けていると、


「あのさ、わたしから提案あるんだけど、いいかな?」


 副クラス委員で俺のすぐ隣で板書係をしていた――けど意見が出ないので手持無沙汰だった――ハスミンが、律義に手を上げながらそう切り出した。

 どうやら助け舟を出してくれるようだ。


「もちろんだ、ぜひ聞かせてくれ」


「えっとね、コスプレ喫茶なんだけどね? 本格的に衣装をそろえたりはしなくて、例えば色だけ統一するっていうのはどうかな?」


「色だけ統一、ってのは?」


「実際にやるのは普通の喫茶店の出し物なんだけど、みんな共通の色の服を着てやるの。コスプレしたい人は色に合う範囲でしたらいいし、そうじゃない人も色だけ合わせてくれれば、全体としては統一感を出しつつ、他のクラスよりもちょっと個性のある喫茶になるかなって思ったんだ。飾りつけとかもその色で統一してさ」


(なるほど、いいアイデアだな。基本的にはコストを抑えつつ、クラス全体のまとまった感も出せるし、それでいてしっかりとコスプレしたい人もやっていい。飲食をしたいっていうみんなの希望も叶えられる。うん、これはかなりいい案じゃないか? さすがハスミンだ)


 そしてそう思ったのは俺だけではなかったようで――。


「蓮見さんのアイデアいいんじゃね?」

「うんうん、これならお小遣いピンチの私も全然いけるし」

「いいと思うー」

「私もハスミンにさんせー!」

「俺も賛成!」

「俺も!」


 ハスミンの提案で、さっきまで完全に意気消沈していたクラスメイトたちが嘘のように生き返っていた。


「ありがとなハスミン、暗くなった雰囲気を変えてくれて助かった」


 俺が小声で感謝の気持ちを伝えると、


「一緒に文化祭実行委員会に参加して話を聞いた時に、結構縛りきついなって思ったんだよね。だから良さそうなアイデアを考えておいたの。他の意見が出れば言わなかったんだけど、一応考えておいて良かったかな」


 ハスミンはこともなげにそう答えた。


「ハスミンの気配りのおかげで本当に助かったよ。今度お礼にケーキでも奢るな」


「ほんと? ラッキー。あ、セットでね」


 ハスミンが小悪魔っぽく笑いながら最後に一言付け加えた。


「よし。じゃあそろそろ決めようと思うんだけど、他にアイデアとか希望がある人はいるか?」


「ないでーす!」

「異議なーし!」

「ハスミンの案でいいと思いまーす」

「俺もさんせー!」


「じゃあうちの文化祭クラス企画は『色統一喫茶(コスプレ可)』で決定します。正式名称はまた後日案を募るので、良さそうなのを考えておいてください」


 俺の言葉を受けてハスミンが黒板に綺麗な字で『色統一喫茶(コスプレ可)』と書き記した。


 その後、提供する飲食物を誰でも作れて失敗しにくいホットケーキに決めた。


 詳細は後日詰めるとして、おおまかには缶詰のフルーツをホットケーキの上にのせて、ホイップクリームと合わせていくつかメニューを用意することにする。


 さらに統一カラーを「赤」に決め、この先の準備の予定なんかを大まかにアウトラインだけ決めていった。


 大まかなだけで詳細を詰めていないのは、バスケ部でレギュラーの伊達なんかはどうしても部活優先になるし、他にも部活をやっている生徒は部の出し物の準備なんかもしないといけないからだ。


 ハスミンも中学時代の友達と個人参加で軽音ライブをやるって言ってたしな。


 そういった他の出し物の準備や部活との擦り合わせをする必要があったため、細かいところまでは現状決めようがなかったのだ。


 とまぁそんな感じで、諸々を大まかに決めて今日のホームルームはとても有意義に終了した。


「ありがとなハスミン」


 終わった後、俺は改めてハスミンにお礼の言葉を伝えておいた。

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