第38話 ~リエナSIDE~(3)

「勇者様!? 急にどうされたんですか!? すごく辛そうですけど!?」


「ヤバイ、完全にしくったな。ちょっと力を使い過ぎたみたいだ」


「えっ!?」


「さっきの技は威力がヤバイだけあって、力の消費量も半端なくヤバイみたいだ……くっ、だめだ。意識が遠のいてきた……あ、ぐぅ……立って、いられ、な、い……」


 もはや立っていることすらできずに倒れ始めた勇者シュウヘイの身体を、リエナは慌てて抱きかかえ――ようとしたものの、リエナの腕力では支えきれず。


 それでもなんとか勇者シュウヘイの身体を地面に横たえたリエナは、正座すると頭を膝の上に乗せて上げて――いわゆる膝枕をする態勢になった。


「勇者様!? 勇者様!! ――っ、いけません! 呼びかけても反応がないし、脈がものすごく低下しています!」


 リエナは必死に呼びかけるものの、全く反応はない。

 勇者シュウヘイの顔は、もう完全に血の気が引いて青ざめてしまっていた。


「待っていてくださいね勇者様、すぐに活性の神術を使いますから! いと尊き女神アテナイよ、この者に生命の息吹を授けたまえ! 『パラセイア・アステーネ』! ――っ! どうして!? 全然効いていません!」


 女神アテナイの力を借りる高位の活性神術はしかし、全く効果を発揮しなかった。

 『セイクリッド・バーニング・バースト・ビッグバン』によって、勇者シュウヘイはあまりにも力を消費しすぎてしまっていたからだ。


 もはや並大抵の高位神術では回復は見込めはしなかった。


「ど、どうすれば……!? このままで勇者様が死んでしまいます。はっ、そうです!」


 絶体絶命のピンチにリエナはふと、とある神学理論を思い出していた。

 女神アテナイ教団大神殿にある禁書収蔵庫の閲覧許可が出た時に読んだ、神話時代の古代文献を研究して書かれた古い論文だ。


「その理論によれば、女神アテナイに与えられる加護やスキルは、対象への深い愛情によって大幅に増幅されるんです。それが互いに互いを想い合う場合は、さらに強力に発動するのだとも」


 女神アテナイによって授けられる力は『真実の愛』によって驚異的に増幅される。

 これは女神アテナイが『オーフェルマウス』の総合神になる前に、愛と知を司る女神だったことに由来している――らしい。


 本当かどうかは分からない。


 リエナは一度こくんと自分を勇気づけるように頷くと、再び活性の術式を頭で思い描いた。

 しかし今度は呪文を唱えはしない。

 代わりにリエナは、勇者シュウヘイの口にそっと優しくキスをしたのだった。


(いと尊き女神アテナイよ。お願いです、私の大切な勇者様をどうか回復させてください――)


 そう強く願いながら、リエナは愛しき勇者シュウヘイへの想いを込めたキスを続けた――



◆◆リエナの♥️キャッ♥️な思い出話・終了◆◆


「そして勇者様は、『真実の愛』によって増幅された私の活性神術によって、みるみる回復したというわけだったんですよ。えっへん!」


「はぁ、つまり惚気のろけってことでいいのかしら?」


「惚気じゃありませんから! 勇者様が命の危機にあったのを、私が女神アテナイの真なる愛の力を顕現させて癒したっていう、信仰心に満ち満ちた素敵なお話です」


「でも勇者様にキスをしてあなたは嬉しかったんでしょう?」


「う、ううう嬉しくなんてなかったし! あ、あ、あれはあくまで純粋な医療行為であって、勇者様を救いたいっていう気持ちが全部で! だからそんな邪な気持ちはこれっぽっちも、米粒ほどだってなかったんだから!」


「はいはい、ごちそうさまでした」


「本当にそういうのとは違うの!」


「ああそう。あ、もう帰っていいわよ。今はなに言ってもダメだって理解できましたから」


「そう? うん、じゃあまたねお母さん」


 勇者との思い出話を語って聞かせたのがたいそう嬉しかったのだろう。

 鼻歌を歌って軽くスキップをしながら、リエナは母の執務室を出て行った。


 そんな娘の背中を見送りながら、


「はぁ……これは想像以上にダメね。あの子ってば完全に勇者様本人に好意を持ったままだわ。もう24になったというのにこの様子だとあの子、完全に行き遅れるわ。かといってあの様子じゃ何を言っても聞かないでしょうし。はてさてどうしたものかしらねぇ……」


 身内のひいき目を抜きにしても明るく可愛くて気が利いて、神官としても極めて有能な自慢の娘が。

 勇者以下は断固拒否などというあまりに高すぎる理想のせいで婚期を逃してしまいそうなことを案じて、大きなため息をつくリエナ母だった。



―――――


 リエナ編はいがかでしたでしょうか。

 次回より本編に戻って第3章が始まります。


 ラブコメ要素が強めだったここまでと打って変わって、第3章では主人公が強くて無双します!


 親の権力を使って高校を裏で支配する財閥御曹司の3年生の先輩との戦いに、乞うご期待です!(>_<)


また、


一年付き合ってた彼女が医大生とラブホから出てきた(NTR……涙)。帰り道、川で幼女が溺れていたので助けて家まで送ってあげたら学園のアイドルの家だった。

https://kakuyomu.jp/works/16817139557276517338


第8回カクヨムコンの応募作です😊

日間総合1位獲得🌟

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