第37話 ~リエナSIDE~(2)
「こんな膨大な数の魔獣を全て倒すだなんて、さすがの勇者様でも無理ですよぉ。しかも数が多いだけでなく、上級の魔獣まで何十体もいるのに……」
中級以下の魔獣だけではなくギガントグリズリーやデスアントラーといった、ただでさえやっかいな上級魔獣がわんさかいるのだ。
リエナがこうも弱気になってしまうのも当然のことだった。
しかし勇者シュウヘイは、ニヤリと自信に満ちた笑みを浮かべて言った。
「まぁ見てなってリエナ。ちょうどこの前、おあつらえ向きの新必殺技を覚えたんだ。ちょうどいい機会だからこいつらで試しみよう」
「新必殺技ですか? 一体いつの間にそんなものを?」
「この前風呂に入ってる時にさ、突然女の人の声が頭の中に聞こえてきたんだよ。聖剣を初めて抜いた時に聞こえた声に似てたかな? そうしたら新しい技が使えるような感覚が、自然と俺の中にあったんだ」
「ちょ! それ、女神アテナイの神託ですよ! まさか女神アテナイの御声まで聞けるだなんてすごいです、さすが勇者様です!」
1000体を越える魔獣に周囲を取り囲まれるという絶体絶命のピンチにもかかわらず、リエナはついつい興奮して鼻息も荒く言ってしまった。
「そっか、あれが女神アテナイの神託なのか――って今はそんな悠長に話してる場合じゃないよな。リエナ、俺の必殺技に巻き込まれないようにいつもの防御結界を張ってくれ、全力でな」
「ええっと、あれは全力だと10秒程しか持ちませんよ?」
「なーに、ものの5秒もあれば十分だ。ってわけで魔獣どもが襲ってくる前に早く結界を張るんだ」
「勇者様がそう言うのでしたら、分かりました……! いと尊き女神アテナイよ、御身を守護する破邪の聖盾を我が手に授けたまえ! 絶対防御結界『セイクリッド・イージス』!」
リエナの言霊が紡がれるとともに、強力な白銀の光が聖なるバリアとなってリエナの身体を包み込んだ。
それを横目に、今度は勇者シュウヘイが聖なる言霊を紡ぐ。
「世界を浄化する聖光の業火よ、邪悪なる者どもを打ち滅ぼせ! 破邪顕正は我にあり! 聖光極限開放! 『セイクリッド・バーニング・バースト・ビッグバン』!」
声高らかに必殺技を叫び、勇者シュウヘイは上段に構えた聖剣を振り下ろした!
すると!
勇者シュウヘイを中心に白銀の聖光が大爆発を巻き起こした!
膨大な破邪の力が込められた聖なる光が、一瞬にして周囲数百メートルを荒れ狂い、そこにある全ての邪悪を聖なる業火でもって焼き払っていく!
破邪の聖光が収まった後に残っていたのは、必殺技を使った勇者シュウヘイと絶対防御結界を張ったリエナ。
ただ2人だけだった。
「し、信じられません!? 1000体を越える魔獣を、それも上級魔獣までたくさんいたのに……それを本当にたった5秒かそこらで全滅させてしまうだなんて! 私は夢でも見ているんでしょうか? あ、痛い……ぐすん」
今見たものが本当に現実なのかどうか確認するため、リエナは自分のほっぺを思いっきりつねってみたのだが、普通に痛かった。
涙目になりつつ、これが夢ではないのだと理解する。
「実を言うと俺も自分で使ってみて少し驚いた。ちょっと威力でかすぎじゃないかこの技?」
「ここまでくるともう個人戦闘レベルじゃなくて、軍隊でも相手にするような広範囲・殲滅攻撃って感じですよね」
「ああそっか。もしかしたらリエナが受けた女神アテナイの神託は、外れたんじゃなくて俺にこれを使わせるためだったのかもな」
「あ……そういうことなら納得ですね」
「なにせこの世界で一番偉い女神アテナイの神託だからな。そうそう外れはしないってわけだ――っとと、むぅ、あ、ぐぅっ……」
突然、リエナと話していた勇者シュウヘイがうめき声をあげるとともに、ぐらりと身体を大きく揺らした。
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