第3章 祭りの後
第39話 中間テストとかいう空気読まない存在(1)
陰キャ時代には考えられないくらいに充実した楽しい文化祭が終わると。
今度は空気が読めないにもほどがあるだろってくらいすぐに、2学期の中間テストが行われた。
クラス一丸となって盛り上がった余韻とか、ちょっと進展した気になる相手との関係とか。
そういったあれやこれやをガン無視した慌ただしいスケジュールに、多くの生徒が涙する中、
「やばい、チート過ぎて正直申し訳ないまである……」
俺は女神アテナイの加護のおかげで終始余裕ムーブをかましていた。
高校の勉強程度なら何でもかんでもすぐに理解できるし、一度覚えたらなかなか忘れない。
高校に入ってからテスト前日は恒例だった徹夜の詰め込み暗記も、今回に限っては全くしていなかった。
する必要がなかったからだ。
なんなら予習復習すらする必要がない。
教科書は授業で見た瞬間に全てが理解できてしまう。
そういうわけだったので、俺は2学期の中間テストを欠片の不安もなく楽勝でクリアした。
唯一不安があるとすればただ一点だけ。
(これもう全教科100点まであるぞ。下手をしたら事前に問題を盗んだとか、スマホでカンニングしたとか疑われるかも)
そんなテスト内容とは全く関係ないことだけだった。
………‥
……
そうして学園祭開けの中間テストが終了し。
今日のテスト明け最初の授業から、テスト返却がスタートした。
「うー、今日からテスト返却かぁ、やだなぁ」
朝の教室でハスミンがちょっとお行儀悪く机に突っ伏しながら呟いた。
ハスミンは後夜祭の時はすごく大胆な感じだったけど、その後はすっかり元通りに接してきていた。
(やっぱりあれは後夜祭の独特の空気に当てられたせいだったんだな。あの態度を見て、ハスミンが俺を好きとか勘違いしないで良かったよ)
陰キャあるあるの1つ『女子に優しくされるとすぐに自分に好意があると思ってしまう』だ。
だめだなまったく。
みんなの中の俺は異世界で5年の戦いを経て魔王を倒した勇者ではなく、突然の遅咲き2学期高校デビューを敢行した謎の元陰キャなんだから。
そこの認識の違いからくる俺という人間への決定的な評価の齟齬を、俺は正しく理解しておく必要があった。
そうでなければ単に痛いヤツだと思われてしまうだけだ。
いや別に思われてもいいっちゃいいというか、それで俺の鋼メンタルが今さらどうこうなることはないんだけれど。
だからと言って俺はマゾというわけでもないので、あれこれ悪く思われないのならそれに越したことはないわけで。
「あれ? ハスミンはテスト直後は結構いい感じにできたって言ってなかったか?」
だから俺も後夜祭のことを蒸し返すこともなく、今までと同じように仲のいいクラスメイトとしてハスミンと接していた。
「うーんそうだったんだけどぉ。帰って気になるところをチェックしてたら、なんか思ってたよりもちょっと微妙かなって気がしてきたんだよね」
「ああ、あるよなそれ、分かる。微妙なラインのが全部合ってたら高得点を狙えるけど、そうじゃなかったら普通って感じだろ?」
「そうそう、まさにそれなんだよね。今回その微妙なラインのが多かったんだぁ」
「でもハスミンは1学期のテストで確か上位20人に入ってたよな? うっすらとだけど名前を見た記憶があるぞ? 本当はかなりできてるんじゃないのか?」
可愛くて美人で陽キャ女子たちのリーダーなのに成績までいいとか、これが勝ち組なんだなぁと羨ましく思った記憶がおぼろげにあった。
なにせ高校1年の1学期は俺の主観時間では遥か5年前の彼方なので、記憶もかなりあやふやだ。
「えへへ、1学期の期末でしょ? あの時は山を張って重点的にやってたところが全教科ドンピシャで出たんだよね。問題を解きながら『これは勝った!』って思ったもん」
「そうだったのか。でも今回も仮に微妙なところがダメ気味でも、だからって悪いってわけでもないんだろ?」
「まぁそれなりには勉強したからね。解答欄がずれてでもない限り、平均点より上は大丈夫かな」
「ならあんまり深く考えなくてもいいんじゃないか? そりゃ高得点に越したことはないだろうけど、まだ1年2学期の中間だしな。これが受験を控えた3年の2学期なら悠長なことは言ってられないだろうけど」
「そうだよね、まだ1年生だもんね――っていうか、そういう修平くんは超余裕だよね? いつ返ってきてもいいぞオーラが出てるくない?」
言いながら、机に突っ伏していたハスミンがむくりと身体を起こして俺の方に向き直った。
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