第7話 こういう輩には、教育の前に躾が必要だよな。(2)

「わ、分かった! これからは真面目に生きる! だからもうこの手を放してくれ! 本当に手首が砕けそうなんだ! あがががっ!! 頼む! 頼むから! ぐっ、ひぎゃぁっ!?」


 最後にひときわ強く、手首が砕け散るギリギリ寸前まで強く握ってから俺は金髪の不良の手を離してやった。

 金髪の不良は手首を抑えながら、子分と同じように尻餅をつきながらその場にへたり込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……し、死ぬかと思ったぜ……」


「こんな程度で死にゃしねえよ。それより不良その1、お前制服着てるし高校生なんだろ? 学生証を見せろ」


「え?」


「え、じゃねぇよ。日本語も分からないのか? お前の学生証を見せろと言ったんだ」


「あ、ああ……」


 恐怖ですっかり従順になった金髪の不良は、いそいそと立ち上がると財布から自分の学生証を取り出した。


「なになに、武田信二……城東高校の2年か。なぁ武田先輩よぉ」


「な、なんだよ……?」


「今後誰かを傷つけるような真似したら、その時は俺が城東高校まで乗り込んでってお前をシバキ倒すからな、よく覚えておけよ? ちなみに今日は相当手加減してやってるからな、それくらいはお前のその馬鹿な頭でも分かるよな?」


「あ、ああ……」


「あのさ、さっきからなにが『ああ』だ。古今東西、誠意ある返事ってのは『はい』だろうが?」


「は、はい」


「声が小さいんだよ」


「は、はいっ!」


「もちろん風の噂でお前の悪行が俺の耳に入っても同じだからな。これからは誰にも迷惑をかけずに品行方正に生きるんだぞ? な、城東高校2年のた・け・だ・せ・ん・ぱ・い」


「は、はいっ! これからは心を入れ替えて清く正しく生きさせていただきます!」


「よし、いい返事だ。じゃあもう行け、今日のところは特別にこれで見逃してやる、特別にな」


 俺は金髪の不良こと武田先輩の胸に押し付けるようにして学生証を返してやる。


「す、すんませんでしたぁ!」


 武田先輩は大きな声で謝りながら頭を下げると、まだ腰を抜かしたままの子分の男を強引に引っ張り上げて、逃げるように駅の改札へと消えていった。


「ふぅ……」


 不良2人組を軽くシメた俺は小さく息をついた。

 もちろん疲れたわけじゃない。

 5年も勇者をやった俺にしてみれば、こんなもんは風呂掃除をしたくらいの微々たる労力だから。


(実のところ今みたいに悪ぶった振りをするのって、あんまり得意じゃないんだよなぁ。俺って根っからの平和主義者だからさ)


 ただ、こういう手合いは得てして優しく言っても通じないのだ。

 それどころかなぜか増長してつけあがって、あろうことかお礼参りをしてきたりするのだ。


 俺だけなら何回こいつらが来ようが、どれだけ徒党を組んで襲ってこようが、いくらでも返り討ちにできる。

 だが蓮見さんに害が及ぶのはいただけない。


 だから仕方なく躾もかねて徹底的に脅してやったんだけど、こういう役柄はあんまり俺向きじゃないからできればこれっきりにしたいところだな。


 と、


「あの、織田くん、えっと、ありがとうね」


 そんな俺のところに蓮見さんがとてとてと近寄ってくると、少し緊張した様子で恐るおそるお礼の言葉をかけてきた。

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