第6話 こういう輩には、教育の前に躾が必要だよな。(1)

「蓮見さんの手を離せとは言ったけど、だからって俺の服を掴むのはやめてくれないかな?」


「ああっ!?」


「シャツの襟元が伸びるだろ? 知らないのか、制服って結構高いんだぞ?」


「さっきからスカしてんじゃねぇぞこの野郎! 痛い目見ないと分かんねぇのかよ!」


 金髪の不良は俺の胸倉を掴んだまま、空いているもう片方の手をグーにして威嚇するように拳を振り上げた。


「織田くん!」

 それを見た蓮見さんがほとんど悲鳴に近い声で俺の名前を叫んだ。


「やれやれ、人が穏便に済ませようとしてるのにさっぱり聞く気がないんだもんな」


「なんだとっ!?」


 しかもこういう手合いに限って仏心を出して見逃してやっても、感謝するどころか復讐を考えたりして全くいいことないんだよな。

 教育じゃなくてその前段階の躾からして、そもそも全くなってないっていうか。


 異世界『オーフェルマウス』でこんな社会性皆無な馬鹿な子供を育てたら、親は村八分だぞ?

 いやまぁそう奴もゼロではなかったんだけどさ。

 ただ向こうじゃ真人間になるように容赦なく矯正されていた。


「しゃーない、他人の迷惑を気にも留めない社会性のかけらもない馬鹿には、ちょっと厳しめにお灸をすえてやるか」


 俺は胸倉を掴んでいる金髪の不良の手首を握ると、ギリギリと万力のように締め上げ始めた。


「なにがお灸をすえてやるだ? テメェは何様のつもりだ――ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああああっっっっっ!?」


 金髪の不良が獣のような叫び声を上げた。

 すぐに俺の胸倉を掴んでいた手が離れる。

 痛みのあまり手を離してしまったのだ。


 しかし俺は力を緩めるどころかさらに強く手首を握っていく。


 俺としてはそこまで力を入れてるわけじゃないし、かなり加減はしてるんだけど、勇者じゃない一般人にしては強くって意味ね。


 俺が本気でやったら、一般人の手首の骨を粉々に爆砕するのに1秒もかからないからな。


 俺に握られた金髪の不良の手首の骨が、ミシミシと嫌な音を立てはじめる。


「あああっ!! お、折れる! 手首が折れる! ひぎゃっ! やめろ! 離せ! あがっ! あぐっ、ぎゃぁぁっ!! あっ、あっ! あがぁぁぁぁぁっっ!」


 目端に涙を浮かべながら俺の目を見て必死に懇願してくる金髪の不良を、俺は眼光鋭くにらみつけると冷たい視線で無言でシャットアウトする。


 さらに俺の戦意に反応して、中級の魔獣すら震え上がらせる勇者スキル『裂帛れっぱくの気合』が発動する。

 数々の魔獣を葬ってきた俺の圧倒的なまでの戦意を本能的に感じ取ったのだろう、


「いてーよぉ! 怖ぇえよ! かあちゃん! かあちゃん!」


 金髪の不良は母親に助けを求めながらブルブルと震えて泣き出してしまった。


「てめぇ! アニキになにしやがんだ!」


 無様に泣き出した金髪の不良を見て、子分の男が声を荒げながら近寄ってくる。


「ば、バカ、よせ! 来るな!」


「あ、アニキ? なんで止めるんすか!」


「こいつの目を見てみろ! どう見てもカタギじゃねぇよ。人殺しの目だ! しかもこのすげぇ力……お、俺が悪かった、許してくれ! もう金輪際この子には声をかけないと約束する! だから手を! その手を放してくれえっ! 手首が折れる! 折れる! あっ、あああっ! あがががががっっ!!」


「あのなぁ、そうじゃないだろ。この子のことだけじゃなくて、俺は根本的にそのクソみたいな生き方を改めろって言ってんだよ」


「あ、ぐ、あ……あがぁっ!!」


「まず第一に他人の嫌がることはするんじゃない。小学生でも分かるだろ、お前はでかい図体して頭の中は小学生以下なのか?」


「このっ、てめぇ! 調子に乗りやがって! いい加減にしろよ!」


 完全に心が折れて俺の言葉にこくこくと頷く涙目の金髪不良とは対照的に、なおも反抗しようとする子分の不良。

 しかし俺が視線を向けて軽く一睨みしてやると、たったそれだけで子分の男は恐怖で腰が抜けて尻餅をついた。


 その股間がすぐに温かいもので湿りはじめる。

 俺の猛烈な戦意を直で受けて、恐怖のあまり失禁してしまったのだ。

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