第5話 帰り道

「じゃあここに置いておきますね」


「ご苦労だったな織田、これで帰りにジュースでも買っていいぞ」


「ありがとうございます先生。ありがたくいただきます」


 放課後。

 クラス委員になって初めての仕事として、回収したクラス全員の夏休みの宿題を職員室に持っていってから、俺は学校を出て帰路についた。


 購買の自販機でジュースを買い、のんびりと景色を眺めながら魔獣が襲ってこない平和な通学路を歩いていく。


「ほんと日本は平和だなぁ……」


 朝登校した時は教室の場所とか、体感で5年と1カ月(異世界5年+夏休み1か月)会ってないクラスメイトの名前とかを思い出してたから、景色を眺める余裕がなかったんだよな。


 ちなみに買ったのはコーラだ。


「あー、美味い……久しぶりのシュワっとしたのど越しだ。向こうの世界はビールはあったけど、ノンアルコールの炭酸飲料がなかったんだよな」


 ビールは一度だけ興味本位でちょろっと飲んでみたら死ぬほど苦くて、泣きそうなほどに不味かったので、それ以降一度も飲むことはなかった。


 だから実に5年ぶりとなる炭酸飲料ののど越しは実に爽快で。

 平和な日本に戻ってきたんだと俺はしみじみと実感していた。


 9月の昼間ということもあって、帰り道の日差しはまだまだ強烈だ。


 しかし勇者スキルによって俺の体温は適切な温度で保たれるため、「少し暑いかな?」くらいにしか感じない。


「いいのか俺、こんな無敵スキルを現代日本に持ち込んじゃって」

 改めて俺は思ったんだけど。


「うん、いいよな。なにせ俺は異世界を救った勇者なんだから」


 世界救済のご褒美としてありがたく使わせてもらおう。


 そのままコーラ片手にのんびり歩いていくと駅につく。

 高校最寄りのJRの駅で、電車通学の生徒はこの駅からそれぞれの地元へと帰っていくのだ。


 もちろん徒歩通学の俺には特に関係のない場所だった。

 単に俺が帰る途中にこの駅があるだけだ。


 そのまま周囲を見渡しながら、

「あそこには何があった、そうそうここはこうだった」

 と5年ぶりの地元に懐かしい気分に浸りながら、俺は駅前にあるコンビニの前を横切った。

 すると見知った顔がコンビニの駐車場にいることに気が付いた。


 今日の席替えで隣の席になった蓮見さんだ。

 クラス委員である俺のサポート役の副クラス委員でもある。


 蓮見さんは不良っぽい男二人組と一緒だった。


(一緒っていうかあれは絡まれてるっぽいな? ナンパか? 蓮見さんはかなり可愛いもんな)


 蓮見さんは男の一人に通学カバンの持ち手を掴まれていて、なにやら言い争っているようだ。

 もちろん同じクラスで隣の席の女の子がそんな目にあっているのを見過ごす元勇者の俺ではない。


「蓮見さん、どうしたの? なにか揉めごと?」


 俺はすぐに近寄ると声をかけた。


「あ、織田くん……」


 蓮見さんが露骨にホッとしたような顔をして、


「あ? なんだお前? 俺ら今この子と楽しくおしゃべり中なの。部外者にいきなり首突っこんで来て邪魔して欲しくないんだけどよぉ?」


 蓮見さんをナンパしていたうちの一人、背の高い金髪の不良が目を細めながら俺をにらみつけてきた。


 だらしなく制服のズボンを腰履きして、金のピアスに金のネックレスを身に着けている。

 いかにもチャラそうだ。


「そうだそうだ! どっか行けよ! アニキの邪魔すんな!」


 さらにもう一人の背の低い黒髪の不良がはやし立てるように言ってくる。


 もちろんちょっとイキっただけの金髪の不良にすごまれたくらいで、魔王を倒した俺はすごすごと逃げ帰ったりはしない。


「俺はその子のクラスメイトだよ。部外者じゃない、席も隣だ」


「ああ? クラスメイトだぁ?」


「っていうか見て分かるだろ、その子が嫌がってることくらい。早く手を離してやれ。そうしたら今日のところは見逃してやる」


「あ? なんだとこら? 何が見逃してやるだこのタコ。舐めてんのかてめぇ? 女の前だからって調子こいてんじゃねえぞ」


 金髪の不良は蓮見さんのカバンから手を離すと、今度は俺の胸倉を絞り上げるように掴んできた。

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