第4話 クラス委員

 その後、ホームルームが始まって2学期のクラス委員や係を決めることになったんだけど――その一番最初のクラス委員決めが難航していた。


 誰もクラス委員に立候補しないからだ。


 クラス委員と言っても名ばかり。

 担任に言われてプリントを取りに行ったり、授業の始めと終わりの号令をかけたり。

 何か決める時には司会をやったりと、つまり実質的には雑用係だから仕方ないんだけど。


(誰かやりたい人がいたらと思って一応様子見してたけど、いなさそうだし、ならよし、俺がやるか)


 5年間の戦いの中で、俺は平和な日常の大切さを実感した。

 当たり前のように学校に通えることの価値も理解した。


 魔王との熾烈な戦いで国力が疲弊していた異世界『オーフェルマウス』では、12歳を迎えた子供は貴重な労働力として、農作業や軍需生産といった生産活動に従事させられていたのだ。


 だからせっかくまたこうやって平和な学生生活を送れるのなら、クラス委員とか色んなことを積極的にやってみたいと思っていたのだ。


「はい! 誰もいないなら、俺がやりたいです」


 教室の一番すみっこの席で、やたらと元気よく挙手して言った俺に教室中の視線が集まる。

 みんな「なんだこいつは?」みたいな目をしていた。


「ほぅ、織田か。なんだか休み前とは雰囲気が変わったな。じゃあ他に誰もいないようなら織田にやってもらうとするか。誰かほかに立候補はいないか?」


 担任の先生がそう言うものの、もちろん異論なんて出るはずもない。

 クラス委員なんて面倒なだけの仕事を進んでやりたい高校生は、普通はいないからな。

 皆どうぞどうぞといった様子で俺に視線を向けていた。


 というわけで俺は晴れて1年5組のクラス委員になった。



「クラス委員に決まった織田です。全員が気持ちよく学校生活を送れるようにがんばりますので、2学期の間よろしくお願いします」


 前に出て簡単に挨拶をすると、先生からホームルームの司会を引き継ぐ。

 

「続いて他の委員と係を決めたいと思います。副クラス委員の立候補はありませんか? 規定によりクラス委員が男子の場合は、副クラス委員には女子がやることになっています」


 昨今流行りのポリコレ的にどうかと思わなくもないものの。

 実際問題、体育を筆頭に男女別の授業はあるし、女子特有の問題なんかもあるのでこれに関しては必要な区別だと俺は思っている。


 しかし俺の声に、女子は皆一様にうつむいてしまった。


(そりゃそうだよな、面倒くさいだけだもんな。あ、もしかして俺と目が合ったら指名されるとか思ってるのかも?)


 もちろん俺にそんな権限はないし、誰もいなければ抽選をすることになるだけなんだけど。


(もしくは俺と一緒にクラス委員をやるのが嫌って線もあるか。傍から見れば俺は二学期にいきなり突発高校デビューをかました陰キャだもんな。女子が遠慮したいのは当たり前だ)


 逆に、例えば男子陽キャグループのリーダーであるバスケ部の1年生レギュラーの伊達君がクラス委員なら、次々と我先にと女子の立候補があっただろう。


(そういう意味だと、俺じゃない方が良かったのかな? まぁ今さらだけど)


 なんてことを考えていると、


「じゃあわたしが立候補します」


 突然、蓮見さんが手を上げた。


「ええっ、蓮見さんが副クラス委員やるの?」

「蓮見がやるなら俺がクラス委員やってもいいよ!」

「俺も俺も!」

「織田、代わってくれよ!」


 学年で1,2を争うほど可愛いと人気の蓮見さんが立候補したことで、すぐに陽キャ男子を中心にざわついた声が上がるものの。


 生徒だけでの話し合いならいざ知らず、担任がいる前で決まったことが今さらひっくり返ることはなく、他に立候補もなかったことから蓮見さんが副クラス委員となった。


「じゃあ次は係を決めていくから、俺が司会をして、蓮見さんはみんなにわかりやすいように板書してもらっていいかな? 俺は先生に提出する用紙に名前を書いていくから」


「うん、分かった」


 その後は特に問題もなくトントン拍子で係が決まっていき、今日は授業もないのでそのまま夏休みの宿題を回収すると、俺たちは晴れて自由の身=放課後となった。


 ちなみに黒板に係と名前を書いていく蓮見さんは、とても綺麗な字をしていた。


 長らく見ていなかった綺麗な文字を見て、俺はどうしようもないほどに平和を感じる。


(綺麗な字を書く余裕があるっていいことだよなぁ)


 あと字が綺麗な女の子はおしとやかそうで個人的に好きだ。

 自分がそんなに字が綺麗じゃないから、すごく魅力的に感じてしまうっていうか。

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