幕間 異世界『オーフェルマウス』(2)
第50話 ~リエナSIDE~2 「大神託」(1)
「お母さん、急ぎの話って何? お見合いの件なら私はっきり断ったはずだけど」
女神アテナイ教団の大司祭を務める母に呼び出されたリエナは、教団本部の大司祭の執務室へとやってくるなりうんざりしたように言った。
「あのお見合いは本当にいいご縁なんですけどねぇ。先方の実家は元々は王家の血を引く古い貴族で、それはもう品行方正に育てられた若君なんですよ?」
「私は貴族とかそういうのにはまったく魅力感じないもん」
「それだけでなく剣技無双で名を馳せ、若くして近衛騎士に抜擢された将来が約束された若者ですのに。さわやかな笑顔が素敵だと、若い女性にそれはもう人気だそうですよ?」
「剣技無双って言っても『ただし勇者様を除く』が付くんでしょ? 残念ながら、勇者様と同レベルかそれ以上に強くて優しくてカッコイイ男の人じゃないと、私は結婚しませんので!」
「せめて『強い』は無しにしませんか? だってそうでしょう、魔王カナンを倒してこの世界を救ってみせた勇者シュウヘイ=オダ以上に強い人間が、この世界にいるわけないでしょうに……いないから、わざわざあなたが古文書をひも解いて異世界から勇者召喚を行ったのではありませんか」
「もう、またそんなことを言うためにお母さんは私を呼びだしたの? 私も結構忙しいんだけど? もう戻ってもいい?」
リエナは高位神官の1人として、魔王討伐の旅を終えてからも日々忙しく働いているのだ。
急に呼びつけられたと思ったら、断ったはずの見合いの話を蒸し返されてはたまったものではなかった。
リエナはうんざりした顔を母に向ける。
「分かりました。では本題に入りましょう。とても大事なことを告げますので、心して聞いてください」
「はい、分かりました」
リエナ母がとても真面目な顔になったのを見て、リエナもつられるように居住まいを正した。
この瞬間から娘の婚期を心配する母と、理想の結婚を夢見る娘ではなく。
女神アテナイに仕える大司祭と高位神官として2人は向き合っているのだ。
「先ほど女神アテナイより大神託を授かりました。討滅したはずの魔王カナンの魂が生き延びており、自らの異世界同位体がある勇者シュウヘイ=オダの世界に異世界転移して再び復活しようとしているとのことです」
「大神託を授けられたのですか!?」
「ええ」
大神託とは文字通り神託の上位互換であり、特に重要な内容を告げる女神アテナイの御言葉のことだ。
大神託は、不世出の天才とも言われる高位神官のリエナであっても滅多に聞くことはできなかった。
その大神託を授けられたのだから、老いたとはいえリエナの母もさすが大司祭といったところである。
「ですが魔王カナンの魂が生き延びていたなんて……そんなのありえません。だって私もこの目で消滅を確認したんですから」
女神アテナイから大神託を授けられたと言われても、しかしリエナもまたその目で魔王カナンの消滅を確認したのだ。
勇者とともに魔王カナンと戦い、激戦の果てに討滅したのは他でもないリエナなのだ。
なのにいくら大神託を授けられたとはいえ、すぐに「はいそうですか」と納得できるものでは到底なかった。
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