第88話「来い! 聖剣『ストレルカ』!」

「でもあの、わたし、修平くんが女の人とラブホテルに入ったのを見て、すごく嫌な気分になって。それで殺したら気持ちよくなるとか思っちゃって、魔王になっちゃって……あの、迷惑かけてごめんなさい!」


 ハスミンが泣きそうな顔で謝罪する。


「おいおい、全部魔王カナンの影響だったんだから、ハスミンが気にする必要なんてこれっぽっちもないんだよ」


「でも――」


「それに、それだけハスミンが俺のことが好きで好きでしょうがなかったってことだろ?」


「ぁ――ぅん」


「ごめんな、ハスミンをそこまで追い詰めちゃってさ。俺ももっと早くハスミンに好きだって伝えていればよかった」


「修平くん……」

 ハスミンが不安そうに上目づかいで見上げながら俺の名前を呼んだ。


「ん? なんだ?」


「わたしでいいの?」


「ばーか。ハスミンで、じゃない。俺はハスミンがいいんだ。ハスミンじゃないとダメなんだ。こんなにもハスミンのことが好きなのに、いい加減分かれよな?」


「あ、うん……わたしも修平くんのことが好き……」


「よし、これで晴れて両思いだな。めでたしめでたしだ」


 俺はそう言うと、俺の腕の中で見上げてくるハスミンの口元に顔を寄せてそっとキスをした。


「えへへ、キスしちゃったね」

「嫌だったか?」


「ううん、全然……えへ、修平くんのこと大好きだから……」

「俺もだよハスミン」


 腕の中ではにかみながら言ったハスミンに、俺も笑顔で答える。


「――ってなわけでだ! こうなっちまえばもうやることは1つだよな!」


 俺は黒い霧のような存在――魔王カナンの魂をしっかと見据えると、ハスミンを左手で抱きかかえたまま、右手を地面と水平に真横に伸ばした。


 そして今か今かと出番を待ちわびていた『それ』の名を喚んだ!

 もう既にパスは繋がっている。


「来い! 聖剣『ストレルカ』!」


 俺の呼びかけとともに、大きく開いた右手のひらに膨大な聖なる力が集まりはじめた!

 集束した巨大な力はすぐに光り輝く一本の剣の形となって、俺の手の中に生まれ落ちる!


「まさか!? 勇者様の帰還後はずっとアテナイ神殿の大正殿に安置されていた聖剣『ストレルカ』を、この世界へと強制的に転移させたのですか!? 信じられません!」


 リエナの説明通り、俺は聖剣『ストレルカ』をこの世界に召喚していた!


「悪いがリエナ、今の俺ならこれくらいは朝めし前だ。って言っても一時的にだけどな」


「それでも充分に凄すぎますよ! 世界間のパワーバランスを完全に無視して、聖剣『ストレルカ』のような強大な力を持った存在を、強引に他の世界に持ち出すなんて!」


『勇者め! 忌まわしい女神の力の使い手めが! ぐぁ、この光……! まるで身体が焼けるようだ……! くぅ、この忌々しい聖なる光めが! 今すぐ消え去れ! 『魔弾ノ流星雨メテオ・バレット』!』


 魔王カナンの魂が、どす黒い怨嗟の声を上げながら無数の魔力弾を打ち放ってきた。


 だがしかし!


「無駄だ!」


 俺が聖剣『ストレルカ』を軽く一振りしただけで、その全てが一瞬で消失する。

 無限に溢れ出る膨大な聖なる光が、邪悪なる力を触れた傍から清め消し去ったのだ!


「馬鹿な、たったの一撃で!? このぉ、勇者めが! 勇者めが! 勇者め勇者め勇者め勇者めがぁぁ――――――!!」


 怒りの絶叫とともに再び放たれた魔力弾も、俺は再びなんなく消し去った。


「馬鹿はお前の方だぜ。女神アテナイの神話級の加護を受け、限りなく神に近づいた今の俺が! たかが一介の魔王ごときに後れを取るものかよ!」


 もはや力の次元が違うのだ――!


 俺は左手で抱きかかえていたハスミンを優しく離すと、両手で構え直した聖剣『ストレルカ』に膨大な力を込めていく。


「行くぞ魔王カナン! 今度こそ決着をつけてやる! 聖光解放! 『セイクリッド・インパクト』ぉぉぉぉ――っっ!」


 目にも止まらない爆発的な踏み込みからの上段斬り。


 極限まで高めた女神アテナイの聖なる力を、俺は魔王カナンの魂へと思い切り叩き込んだ!


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