第87話 『真実の愛』
「なんだ……? あり得ない程の膨大な力が溢れてくる……!?」
まるで身体の中に燃え盛る太陽が生まれ落ちたかのように。
細胞という細胞が活性化し、猛烈な力が湧き上がってくるのを俺は感じ取っていた。
完全に機能停止していたはずの防御加護が復活し、しかもそれだけでなく勇者スキル『リジェネレーション』が猛烈な勢いで発動し、見る見るうちに俺の傷とダメージを癒していく。
「ううっ、ぐっ、あぐっ、ぐぅぅっ……!」
そしてその間もハスミンはずっと、俺の腕の中でもがき苦しみ続けていた。
「ハスミン大丈夫か! おい、ハスミン! ハスミンってば!」
「あがっ、ぐぅ、ぐ、あ、ぎ、ぐぁぁぁぁぁっ!?」
俺が呼びかけてもハスミンは苦悶の表情で苦しそうな声を上げ続けている。
「いったい何が起こってるんだ……!?」
完全に力が戻った腕で今にも暴れだそうとするハスミンを抱きしめながら、俺が突然の事態に戸惑っていると、
「はっ! そう言えば古代の文献で読んだことがあります!」
ここまで成り行きを見守っていたリエナが、やや興奮気味に言った。
「リエナ? 急に大きな声でどうしたんだ?」
「これは神話にある『女神アテナイの究極の加護』です!」
「神話にある『女神アテナイの究極の加護』だって?」
「はい! 大神殿の禁書収蔵庫にある古い文献によると、女神アテナイは『オーフェルマウス』の総合神となる前は『愛』を司さどる女神だったんです。そして『真実の愛』を成し遂げた者に、全ての障害を打ち払う究極の力を授けたと、そう記されているんです!」
「それがこの激しく燃え盛る太陽みたいな力なのか?」
「文献にあった描写とも一致していますし、実は私も一度だけこれに近い経験をしたことがあるんです」
「さすがリエナ、これを経験したことがあるなんて天才ってのは伊達じゃないな」
「私の時とは比べ物にならない程の膨大な力ですが間違いありません。今2人に『真実の愛』が成ったことで、勇者様は女神アテナイの授ける究極の力を――神そのものともいうべき力を手にしたんです……!」
「そうか、これは神の力なのか――そう言われると不思議なほどにしっくりくる」
それほどまですさまじい力が俺の身体に生まれ落ちていた。
あとリエナがちょっと解説キャラみたいだ。
バトル漫画とかの観客で、なぜか色んなことにメチャクチャ詳しい上に、何が起こっているのかを一瞬で見極める慧眼と、分かりやすく説明する要約力まで持った謎の一般人キャラね。
今のリエナはアレみたいだ。
まぁリエナは女神アテナイについては素人どころか、誰よりも専門家なわけだけど。
そして、
「あああぁぁぁぁぁっっ!」
苦しんでいたハスミンがひと際大きな獣のような絶叫を上げると、なにやら不定形な黒い霧のようなものが、その身体から追い出されるように抜け出したのだ――!
「これって――!」
「はい! 魔王カナンの魂が、『真実の愛』がなったことにより清められたハスミンさんの身体にいられなくなって、身体の外へと追い出されたんです!」
それと同時に、
「あれ、わたし……」
ハスミンがいつもの様子で呟いた。
俺の腕の中できょとんとした顔で俺の顔を見上げている。
「ようハスミン、すっかり元通りみたいだな。なんか変なところとか痛いところはないか?」
「あ、うん。特にはないかな? むしろかなり元気な感じ?」
「なら良かった」
とりあえず身体に問題はないようで、俺はホッと一安心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます