第76話 ~蓮見佳奈SIDE~3(2)
「え? あれって修平くん? 見間違い……じゃないよね?」
わたしは一度大きく深呼吸をすると、そっと顔だけ出して、さっき見たあたりを再びこっそりと覗き見た。
歓楽街には派手な看板がむやみやたらといっぱいあるので、こうやってこっそり覗き見するにはうってつけだ。
そして改めて視線を向けた先にいたのはやっぱり修平くんだった。
少し距離はあるけど、毎日一緒にいるんだから見間違えるはずもない。
修平くんはまるで中世のお城のような派手派手なラブホテルの前で、白い神官服のようなハイクオリティなコスプレをした綺麗な年上の外国人女性と、何やら楽しそうに話し込んでいた。
しかも、
「なんだかすごく仲がいいっていうか、明らかに長年の知り合いっぽいよね? 年上の外国人女性とどうやってあんなに仲良くなったんだろ……?」
綺麗な女の人に対して、修平くんは学校の誰よりも近い距離感を出していた。
もちろん、わたしといる時よりも――。
わたしはそんな2人から目が離せないでいた。
盗み見しているっていう罪悪感はあった。
でも知りたいって気持ちがそれに勝った。
修平くんとあの綺麗な女の人がどんな関係なのかを知りたかった。
2人がなんでもない関係なんだって証拠が、わたしはどうしても欲しかったのだ。
けれど、そうこうしている内に2人はなんとラブホテルの中に入って行ってしまった。
修平くんの方からちょっと強引に背中を押して連れ込んだようにも見えた。
「そっかぁ、そういう関係かぁ……」
2人は仲よくラブホに入るような関係――つまりは恋人同士だったのだ。
「そっかぁ……」
色んなことが1つに繋がった。
「夏休み明けに修平くんが別人ってくらいに変わっていたのは、あの女の人のおかげだったんだね」
夏休みに海外にでも行って、そこで知り合ったんだろう。
修平くんが変わった理由として、フランスの傭兵部隊で中東に行ってテロ組織と戦っていた――なんていうあまりにも奇想天外な噂があった。
ありえないでしょって笑って聞き流していたけど、どうもそう違った話でもなかったんだね。
少なくとも海外であの女の人としたなんらかの体験が、修平くんを大きく変え。
そして彼女の方もそんな修平くんのことをまんざらでもなく思っていて、こうやって遠く日本まで追いかけてきたのだ。
「あ、で、でもでも、まだ勘違いって線はあるかもだよね? なにか特別な理由があるのかもしれないし」
若い男女がラブホテルに入る特別な理由が、たとえば……ほら、えっと……なにかあるじゃん!
っていうかそんなの普通の女子高生が思いつくわけないでしょ!
完全に頭がとっちらかっちゃってしまっていたわたしは、藁にもすがる思いでスマホを取り出すと修平くんにラインを送った。
『用事は間に合った? ご両親と待ち合わせとか?』
誰と会っているかを聞き出そうとするなんて失礼過ぎると思ったけど。
今のわたしは、あの綺麗な女の人が何者なのか、修平くんとどういう関係なのかをどうしても知りたかったのだ。
人としての道徳よりも自分の欲望が勝ってしまった。
少しして修平くんから返事が返ってくる。
『そうだよ、親と会ってた』
――その文面を見てわたしは今度こそ全てを察した。
察せざるをえなかった。
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