最終章

第78話 長期欠席

「ハスミンは今日も休みか……」


 朝のホームルームが始まっても空っぽのままの隣の席を見て、俺は小さな声でつぶやいた。


 体育祭の翌日からハスミンはずっと学校を休んでいた。

 土日を挟んで今日でもうかれこれ一週間になる。


 ハスミンは体育祭の日もすこぶる元気だったので、俺としてもこの長期休みが気にならないはずもなく、担任の先生に尋ねてみたところ、


『俺も体調不良としか聞いていないんだ。蓮見は副クラス委員でみんなを引っ張っていたし、ここまで無遅刻無欠席だったから職員会議でも急な長期欠席が話に出ていてな。お前こそ何か知らないか? 織田は蓮見と仲良かっただろ?』


 と逆に聞き返されてしまうありさまで、つまり何の情報も得られなかった。



「なぁ新田さん、ハスミンがずっと休んでる理由を知ってたりしないか? 俺がライン送っても既読スルーでさ」


 ついに俺は最後の頼みとして新田さんに聞いてみることにした。

 ハスミンの小中学校時代からの親友の新田さんなら、さすがに何か知っているだろうと踏んだんだけど、


「それが私も何も聞いてないのよね。何度もラインしてるんだけど、織田くんと同じでまったく返事がなくて。あの子中学からずっと皆勤賞だったのに」


「そうなのか……新田さんなら何か知ってるかと思ったんだけどな」

 最後の頼みはいとも簡単に絶たれてしまった。


「ごめんなさい、力になれなくて」


「ああいや、気にしないでくれ。新田さんが悪いわけじゃないし。もし何か分かったらでいいんで、教えてくれるとありがたい」


「分かったわ、いの一番に織田くんに教えるわね。そうだ、とりあえずあの子の住所教えておこうか? もし万が一何かあった時に知ってた方がいいだろうし」


「気持ちは嬉しいけど、ハスミンの知らないところで勝手に個人情報のやり取りをして大丈夫かな?」


「あの子なら織田くんに知られても文句は言わないと思うわよ? 最近はすごく仲いいでしょ?」

「そうは言っても、親しき中にも礼儀ありって言うからなぁ」


「あはは、そんなに心配しなくても大丈夫だってば。心配しないで、私が保証するから」

 新田さんは笑いながらスマホを取り出すと、ラインで住所を転送してくれる。


「ハスミンの大親友の新田さんに保証されたら、信じないわけにはいかないかな」


 そういうわけで、俺は新田さんからハスミンの住所を教えてもらった。

 ハスミンが住んでいるのは3駅隣の駅で、北口改札を出るとそのまま道沿いに10分ほど北上したところにある新興住宅地だそうだ。


「お土産はモンブランがお勧めよ。あの子モンブランが大好きだから」


「そういや駅前のカフェに行った時にそんなことを言ってたような」

 新田さんの言葉で、一緒に駅前のカフェでケーキを食べたことを思い出す。


「オシャレなカフェでデートとか青春よね、あの子が羨ましいわ」


「そう言う新田さんも最近は伊達といい感じに見えるけど? この前も放課後に一緒に帰ってたよな? 俺見たぞ?」


 体育祭のリレーの練習を通して、伊達と新田さんはかなり仲良くなったように見える。


「あ、あれはバスケ部の休養日にたまたま帰りが一緒になっただけで、べ、別に伊達くんとはそんなんじゃないの……ないから」


 頬を赤く染めてチラッと伊達に視線を向けた新田さんは、どう見ても恋する乙女にしか見えなかったものの。

 人様の恋路に口を出せるほど俺は恋愛経験が豊富ではなかったので、それ以上深く突っ込んだりはしなかった。


 というか女の子と付き合ったことすらない俺に、他人の恋愛についていったい何が言えるというのか?

 ただまぁ個人的には、2人とも性格はいいし美男美女カップルでお似合いだとは思う。



(でも先生に聞いても新田さんに聞いても成果はなかったし、ハスミンの件はとりあえず保留かなぁ)


 新田さんと伊達の恋模様はさておき。

 ハスミンについて俺は現状そう結論付けることにした。

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