第59話 一緒にお弁当

『ね、ねぇ修平くん? あのね、よかったらなんだけどね? 体育祭の日にお弁当作ってきてあげようか? べ、別に特に深い意味とかはないんだけど。ほら不良に絡まれてるのを助けてもらったりとか、文化祭でギターやって助けてもらったりとか修平くんには普段から色々とお世話になってるでしょ? だからお礼でもしたいかなってずっと思ってたっていうか。と、特に深い意味はないんだけど、どうかな?』


 そんなことを体育祭の少し前に、やたらと早口でハスミンから言われたのだ。


『マジか? 俺としてはすごく嬉しい申し出だけど、2人分作るのって結構手間だろ? 男女の食べる量の差を考えたら、普段のハスミンの4人分とか5人分になるかもだしさ』


 俺としてはありがたすぎる申し出で、断る理由はまったくない。

 お礼だよって言われたのに断るとか、逆に感じ悪いまであるだろう。


 ただ、育ち盛りの男子の食べる量は多いので、たくさん作るのは手間だろうなとちょっと思ってしまったのだ。


『う、嬉しいんだ……?』


『そりゃもちろん、ハスミンみたいな可愛い女の子からお弁当を作ってもらったら、男はみんな嬉しくなるだろ?』


『そ、そう? じゃあ楽しみにしててね。約束だからね!』


『もちろん楽しみに待ってるよ』



 ――――とまぁそんな感じのやりとりがあったのだ。


(体育祭で女の子の手作り弁当を一緒に食べる。陰キャ時代では到底考えられなかったキラキラの青春学園生活だ。実に素晴らしいな)


 俺とハスミンはレジャーシートを持ってグラウンドに戻ると、空いてるスペースにシートを広げてお弁当を食べ始めた。


「おっ、から揚げ弁当か、美味そうだな」

「えっと、男の子は唐揚げが大好きって聞いたから……」


「大好きだよ、もういくらでもいける。ミニハンバーグもソーセージもポテトサラダも美味しそうだし。じゃあ、いただきます……うん、美味しい」


「良かったぁ……」


 実のところ異世界での勇者時代はリエナと野宿することも結構あったから、女の子――つまりリエナの手作り料理を食べた経験は何度もあったりする。


 でもリエナが持っていた料理スキルはどっちかって言うと、


・『あまり美味しくない携帯保存食をちょっとだけ美味しく食べられるようにする旅の小技』

・『火を使わない調理法』

・『野草のエグみを取り除いてなんとか食べられるようにするサバイバル術』

・『食べられるキノコの見分け方』


 って感じの、勇者旅をサポートするための隙間スキルばかりだった。

 だからこういう風に美味しく料理された女の子の手作り弁当を食べさせせてもらう経験は、俺にとって初めてのことだった。


「ほんと美味しいよ。あれ、これさっきと味が違うな? ……なんだろ、柚子胡椒? もしかして唐揚げは下味が何種類かあるのか?」


「あ、うん。そっちのほうが飽きずに食べられるかなと思って」


「なんだそれ!? めちゃくちゃ凝ってるじゃないか。大変だっただろ?」


「そ、そうでもないし? それに修平くんに喜んで欲しかったから」


「めちゃくちゃ嬉しいよ。あ、こっちは梅味の唐揚げなのか? こんなの初めて食べた。うん、どれもこれも美味しい」


「それは梅酢につけたんだよね。今日は天気が良くてかなり暑いし、身体も動かすでしょ? だからさっぱりした味付けのも入れておいたほうが、食べやすいかなって思って」


「色々と気を使ってくれて本当にありがとうな。今日のハスミンの手作り弁当は、俺の今までの人生で一番の食事だ」


「もう、そうやっておだてても何も出ないんだからね?」


「おだててなんかないさ、全部本心だってば。これは午後のスウェーデンリレーも気合が入りそうだ。ありがとな、ハスミン」


「修平くんにそこまで喜んでもらえて、わたしも良かったかな。頑張って作った甲斐があったよ、えへへ」


 俺はあれこれ味の感想を感謝とともに伝えながら、ハスミンのとても凝った手作り唐揚げ弁当を心行くまで堪能した。

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