第58話 体育祭(2)
「修平くんお疲れさま~、はいアクエリ」
100メートル走に続いて1500メートル走でも1位を取り、1年5組の待機エリアに戻ってきた俺にハスミンがペットボトルを持って駆け寄ってきた。
「ありがとハスミン……あぁ冷たくて気持ちいい……生き返る……」
「1500メートルも全力で走ったんだもん、疲れるよね。あと貫禄の1位おめでとさん。すごい声援だったね、よ、色男!」
「あはは、ありがと。まぁでも実際には貫禄ってことはなかったんだけどな。最後まで気の抜けない展開だったし」
「スタート直後に抜けだした時は、すぐに追いつかれちゃったもんね」
陸上部の先輩と、サッカー部の先輩と、俺。
3人によるデッドヒートを、俺は最後のラストスパートで抜け出してギリギリで制したものの。
「正直、序盤のハイペースについてこられるとは思ってなかったんだよなぁ。大逃げかまして戦意喪失させる作戦だったんだけど、さすがは長距離得意な陸上部とサッカー部のキャプテンだ。速いだけじゃなくて精神力も強かった」
「ほんとラスト一周まですごいデッドヒートだったよね。わたしも応援にも気合入っちゃったよ」
「うん、ハスミンの応援はちゃんと聞こえてたぞ」
「ほんとかなぁ? 他のクラスの女の子とかもいっぱい応援してたのに?」
「ほんとほんと。『ラスト1周! イケーイケー!』って言ってただろ? おかげで最後までラストスパートがもった。応援ありがとなハスミン」
「あ、うん……わたしの応援聞こえてたんだ……えへへ、役に立てて良かった」
おいおい、なに顔を赤くしてモジモジ俯いてるんだよ。
可愛いハスミンがそんな顔見せたら、俺のこと好きかもとか勘違いするだろ?
「ほんとにめちゃくちゃ背中押してもらえたよ」
「タイムは4分ちょうどくらいだったんでしょ? ほんと速すぎ!」
「序盤からお互いに負けてたまるかって感じの超ガチバトルだったからな。俺も絶対負けるもんかって思ってマジの全力だったし」
本当に久しぶりに根性込めて勝ちに行った。
この世界に戻ってきてからあそこまで全力で身体を動かしたのは、初めてだったと思う。
(っていうか不人気競技なのに、ほとんどのクラスが本気過ぎだったんだよ)
どこのクラスもザ・長距離マイスターみたいなやつばっかり出てきていたのだ。 そんなだったから、数合わせで出てた何人かの生徒は次々に周回遅れにされてて涙目だったぞ?
なんてことをアクエリ片手にハスミンと話していると、
ピンポンパンボーン。
『女子後ろ向き競争の参加者は入場ゲート前に集合してください。繰り返します、女子後ろ向き競争の参加者は――』
「あ、わたしの番だ」
「行ってら。こけないように気をつけてな」
「ふふん、背走はばっちり自主練してきたから大丈夫。割と自信あるからちゃんと見ててよね。あと応援もよろしくね」
「任せとけ」
ハスミンはクラスの待機場所を離れると入場ゲートに歩いていった。
少ししてから女子後ろ向き競争が開始される。
「ハスミンがんばれー!」
練習したというだけあって、ハスミンは最大の難所である「けん玉を中皿に載せたままジグザグゾーン(落とすとゾーンの初めからやり直し)」を後ろ向きで華麗にクリアすると、見事に1位でフィニッシュした。
戻ってきたハスミンをねぎらったところで、1時間のお昼休憩が告げられる。
ハスミンと一緒にいったん教室に戻った俺は、
「はいこれ、修平くんのお弁当ね」
ハスミンにお弁当を手渡された。
「わざわざ作ってきてもらってありがとうな、嬉しいよ」
「お、お礼だからそんなに気にしないでいいから」
「そうか? でもやっぱり作ってきてもらったんだからありがとうだよ」
「う、うん……どうしたしまして、えへへへ」
今日はなんと体育祭と言うことで、ハスミンが俺の分のお弁当を作ってきてくれたのだ。
俺はその時のやり取りを少し思い出す――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます