第57話 体育祭(1)
俺はまず開会式直後に行われた男子100メートル走で1位になった。
その後しばらくクラスを応援した後、今度は男子1500メートル走に出場するために集合場所に向かう。
「頑張ってね修平くん。目指せ長短二冠! リアル二刀流!」
「ハスミンも応援よろしくな」
「もちろんだし。クラスの前を通る時は手を振ってね」
「余裕があればな」
ハスミンが気持ちよく送り出してくれたので、俺もモチベーションがかなり高い。
集合場所に参加者全員が集まると、すぐにピストルの合図で競技がスタートした。
そして走り始めてすぐに、
『さて始まりましたるは、不人気競技筆頭の男子1500メートル走です』
『おいこら、冒頭からいきなり不人気競技筆頭とか言うんじゃない。実況なんだから私情は挟まず、全体のテンション上がるように盛り上げていかないと。お前は来年の放送部の部長なんだぞ』
実況担当の放送部男女2人による掛け合いが始まった。
男子1500メートル走は全学年まとめて一気にやるせいで、誰が誰だか分かりにくい。
しかも長い距離を単調に走り続けるからイマイチパッとせず、時間がかかって間延びもするから的確かつユーモラスな実況が欠かせないのだ。
『だって部長、みんなそう思ってるじゃないですか。体育祭の人気競技アンケートで15年連続最下位は伊達じゃないですよ』
『学内新聞の端のアンケートなんてほとんど誰も見やしないんだ。つまり今お前が言わなければみんな知らずに済んだんだよ』
『私に報道しない自由を強いるのですか!? 私が部長となった暁にはそんな権力の横暴には絶対に屈しませんからね!』
『俺は単に空気を読めって言ってるんだよ……』
『しかもこの競技ときたら全競技中で唯一、学年の垣根を越えて戦うこともあって、毎年サッカー部や陸上部を中心に激しいデッドヒートが繰り広げられる苛烈な競技としても有名なんですよね。これに数合わせで参加させられた人は完全に罰ゲームです』
『ぶっちゃけるとその辺りは運営も分かっているので、非常に高ポイントが配分されています。そういうわけで皆さん! クラスの優勝のためにも参加者に熱いエールを送りましょう!』
『ましょう!』
『って、うおっ!? 出だしから1年5組が抜け出してるぞ!? あれって確か100メートル走もぶっちぎってた男子だよな、しかも帰宅部の』
『さすがにスタートから飛ばし過ぎに見えますね? これで1500メートル走り切るのはちょっと持たなさそうな?』
『つまりこれはあれか!? 冬のマラソン大会で開幕ダッシュで目立ちたいあれなのか!?』
『うちの高校に冬季マラソン大会はありませんけど、部長の言いたいことは分かります。ちなみにちょうど救護係としてそこにおられる陸上部の顧問の先生に聞いてみたんですけど、このペースだと余裕でインターハイ優勝レベルだそうですよ』
『そんなありえない超ハイペースで1年生は果たしてどこまで持つのか!』
『しかもなんと! その1年5組に3年3組と3年4組がついていっています!』
『ええっと、あれは陸上部の長距離専門の斎藤と、サッカー部キャプテンの北条だな。どちらも長距離が得意な優勝候補2人が、大逃げする1年を果敢に追いかけはじめたぞ!』
『これはもう1年ごときには負けないという先輩の意地ですね! 熱い男の戦いです! とてもいいですね!』
『これは面白い展開になってきたぞ! それにしても1年5組ペースが落ちない! 彼は本当に帰宅部なのか!?』
『あ、彼のことなら私後輩に聞いたんですけど。1学期は存在感が薄かったのに、2学期から別人のように変わってリーダーシップをとるようになったそうですよ』
『へぇ、人間ってそんなすぐに変わるものなんだねぇ』
『しかも2学期の中間テストは、うちの学校の開校以来初となる全教科満点で総合1位。文化祭ではクラス委員としてクラスの出し物を成功させ、さらには怪我をしたクラスメイトの代わりにバンドのギターをこなしたそうです』
『なんだそりゃ!? 1年5組の帰宅部は化け物か!?』
『なんか噂では夏休みにフランスの傭兵部隊に参加して、中東でテロと戦ってたらしいですよ。ブォンジュールみたいな?』
『どんな噂だよ? でもちょっと信じてしまいそうな自分がいるな』
『声援もひと際大きいですからね、特に女子から。他のクラスからも黄色い声援が上がってます。モテモテですね、青春ですね』
『くぅ! これが勝ち組か! 勝ち組ってやつなのか! 俺と代われそこの1年!』
『とまぁそれほどの圧倒的なパフォーマンスを見せています! そしてそうこう話している間に、戦いは最終盤に入りました。泣いても笑ってもラスト一周です!』
『勝つのは新進気鋭の1年か! それとも3年生が最後の体育祭で意地を見せるのか!? っていうか3年頑張れ! マジ頑張れ! そこの勝ち組1年に勝って目に物みせてやってくれ! 頼む!』
『ちょ、部長。さっきから私情入りまくりですよ。ちゃんと公平に実況やってください』
『これは私情じゃないんだよ! 俺は全男子の気持ちを代弁しているんだ! ああっ!? しかしここで3人のデッドヒートから1年5組が抜け出してしまった!?』
『ここで1年5組がまさかのラストスパートです! 速い、速すぎる! このハイペースの勝負で、最後にまだこんな末脚を残していたのか!? だめです、3年生2人はもうついていけません!』
『おいこら斎藤、北条! お前ら気合い入れろ気合い! 相手は1年の帰宅部だぞ、このまま負けて恥ずかしくないのか!? 勝ったら焼肉奢ってやるから頼む勝ってくれ! 根性見せろ死ぬ気で走れ! 食らいつけ!!』
『えー、部長が好き勝手に私情を挟みまくっている間に、1年5組の織田君がサッカー部と陸上部を抑えての堂々の1位フィニッシュです。おめでとうございます』
『ああぁぁぁ……』
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