第60話 男女混合スウェーデンリレー(1)
ハスミンの手作り弁当を美味しく楽しくいただいた後。
午後の部は大トリの男女混合スウェーデンリレーまで出番がなかった俺は、ハスミンと一緒にクラスの応援に精を出していた。
「やった! 二人三脚はうちのクラスが1位だよ。しかも宿敵の4組が最下位だし」
「これで首位の4組との差はほとんどなくなったな。逆転優勝も狙えそうだ」
体育祭の終盤戦で、俺の所属する1年5組は驚異の追い上げを見せ、学年別優勝まであとわずかの超僅差で現在2位につけていた。
残る種目は数少ない。
このままいけば、優勝の行方はまず間違いなく最後の男女混合スウェーデンリレーに
そして競技の切れ間にタイミングよく放送が聞こえてくる。
ピンポンパンボーン。
『男女混合スウェーデンリレーの参加者は入場ゲート前に集合してください。繰り返します、男女混合スウェーデンリレーの参加者は――』
「出番だな。行くか」
「ういうい」
俺はハスミン、伊達、新田さんとともに入場ゲート前へと向かった。
参加者が全員揃うまでの間に、4人でモチベーションを高めていく。
「新田さん、スタートは頼んだよ」
「この中じゃ私が一番ドンくさいから任せてとは言えないけど。それなりにスタートの練習もしてきたし頑張るわ」
「ふふん、メイはやる時はやる子だから大丈夫だよ、安心して」
「どうして私のことでハスミンがそんなに自慢げなのよ……」
超ドヤ顔のハスミンに、新田さんが呆れたように呟く。
「それはもうわたしとメイの仲ですから。なんせ小学校からだもん」
「ただの腐れ縁でしょ」
「またまたぁ、メイったら照れちゃってるの? 可愛いんだから」
「全然照れてないから」
「あ、そうだ。ねぇねぇ、せっかくだからみんなで円陣を組まない?」
新田さんのツッコミを華麗にスルーしたハスミンが、ふと思いついたように提案する。
「いいな。今日の最終競技だし、やろうぜみんなで」
「円陣か。バスケの試合前を思い出してテンション上がってくるな」
「そうね、これで最後だしみんなでやりましょうか」
ハスミンの提案で俺たち4人は円陣を組んだ。
「じゃあま、緊張せずに気楽に行こう。結果は後からついてくるもんだ」
「ちょっと修平くん、そこは『1位を取って逆転優勝だ!』とか言うとこじゃないの?」
「俺としてはわざわざ始まる前にプレッシャーかけるのはどうかと思うんだよな。言わなくても4人とも優勝が懸かってるのは分かってるだろ? それに突き詰めたら学校行事だしさ。負けて死ぬわけじゃないんだから、楽しく勝ちに行こうぜ」
これは負けることが許されなかった魔王カナンとの戦いじゃないからな。
結果も大事だけど、同じくらいに過程を楽しむことも大事だと俺は思っていた。
「俺も織田の意見に賛成だな。全国行けるかどうかの県大会決勝じゃないんだし、そりゃ勝つに越したことはないけど、みんなで練習したバトンパスの成果を思いっきり出せればいいと思うぜ」
伊達が女の子なら100人中99人は胸キュン確定の、超絶さわやか陽キャイケメンスマイルで言って、
「私も同じ意見よ。ってことで3対1でハスミンの負けね。ハスミンは昔から勝ち負けばっかり気にするんだから」
新田さんがハスミンに話の矛先を向けた。
「なんでかわたし一人だけ悪者みたいにされてるんだけど……」
「ふふっ、冗談だから拗ねないでってば。ハスミンは300メートルも走るんだから頑張ってもらわないとだし。頼りにしてるわよ」
「そうだぞハスミン。待ってるからな、俺にバトンを届けてくれよ?」
俺は隣で肩を組んでいるハスミンににっこりと笑っていった。
「あ、う、うん……ちゃんと届けるから……」
「あれあれぇ? ハスミンの顔、赤くない? もしかして――」
「はぁっ!? なに言ってるのかな!? 全然赤くないし! もしかしてもないし! メイは勝手な憶測であれこれ言わないでよね!」
「おやおやぁ? 私は『もしかして暑いの?』って言おうとしただけなんだけど? ハスミンってば、いったい何をそんなに興奮しているのかしら?」
「ううう~~~っ!!」
「ぷっ」
吹き出した新田さんを恨めしそうににらみながら地団太を踏むハスミン。
体育祭という非日常の空気がそうさせるのか、普段はわりと大人びているハスミンが見せた子供っぽい姿は、いつにも増して可愛いらしかった。
それにしてもほんと仲がいいよな、この2人は。
いかにも昔ながらの親友って感じだ。
長いこと陰キャをしていた俺はこういう昔からの親友が1人もいないから、仲のいい2人の関係がとても眩しく見えてしょうがなかった。
そんな感じで盛り上がっているとすぐに入場行進が始まって。
入場した後は俺と新田さんはその場にとどまり、
「じゃあわたしたちは向こうだから」
「がんばろうな」
第二走者の伊達と第三走者のハスミンはトラックの反対側に歩いていった。
と、離れていく2人を何とはなしに見送っていた俺に、新田さんが話しかけてきた。
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