第41話 中間テストとかいう空気読まない存在(3)

(俺が、恋か……)


 陰キャ時代の中学時代。

 命をかけて戦っていた勇者時代。


 ずっと恋愛から最も遠いところにいた俺だけど。

 そんな俺がいつの間にか恋をしていたのか。


 これまでなんとなくいいなと思っていた自分の気持ちが恋であることを、俺は今ようやくはっきりと自覚したのだった。


 俺はハスミンが――蓮見佳奈という女の子のことが好きなんだ。


「んゆ? どうしたの急に黙り込んじゃって?」


「え? ああごめん、なんでもないから。じゃあ逆にハスミンが20位以内に入ったら俺に奢ってくれるんだよな?」


「あれ、そうなっちゃうね? あれ?」


 ハスミンと何気ない会話をしながら、俺は自分の心の内と向き合う。


 ハスミンの笑っている顔を見ると心がポカポカする。

 ハスミンに名前を呼び捨てにされるとドキッとした。

 普通に話しているだけで楽しくて、いくらでも話していたいと思ってしまう。


  そうか、俺は恋をしていたのか――。


 そんな俺の感慨をよそに、それぞれの授業で随時テストの返却が行われ。

 その結果。

 俺は全教科満点で、ほぼ間違いなく学年トップを獲得した。


「ちょっと修平くん!? 最後も100点で全教科満点とかありえなくない!?」

「お、おう。でもちょっと落ち着こうな?」


「こんなの週末の張り出しを見に行かなくても、絶対に総合1位だよね!? それ以外ありえないよね!?」

「そうかもな。とりあえず落ち着こうぜ」


「頭の性能がレベチで違い過ぎるんだけど!? っていうかなんでうちみたいな普通の公立高校にいるの!? 私立の進学校とか行った方がよくない!?」


「オッケー分かった。駅前カフェのケーキセットを奢るから、いったん落ち着いてくれハスミン。話はそれからだ」


 まるで自分のことのように喜んでくれて、ちょっと興奮しすぎなハスミンをなだめすかすのに、駅前のカフェのケーキセットをおごることを約束した俺だった。



 数日後にテストの上位20人が張り出され、俺はその一番上に名前が載った。

 そしてその日の放課後、俺は担任から職員室に呼び出されていた。


「全教科満点はうちの学校の長い歴史の中でも初めてのことだ、おめでとう」

「ありがとうございます。それで今日呼ばれた要件というのはなんでしょうか」


「いやそれだけだよ。開校以来初っていうのを伝えたかっただけだ」

「そうでしたか。わざわざありがとうございました」


「そうだ、一応言っておくが、カンニングの可能性は学年会議で満場一致で否定されたから心配はいらないぞ。普段の授業から織田の理解力は相当高い、何を聞いても完璧に答えると先生の間でも評判だったからな」


「ありがとうございます。実のところ、疑われていないか少しだけ心配していたんです」


「ははは、それは取り越し苦労だったな。クラス委員としてもみんなを上手くまとめているし、この調子で3年までいけば東大や京大、あとはうちの学校に毎年1枠だけある帝應大学の指定校推薦だって余裕で狙えるぞ。まだ1年の2学期ではっきりと進路は決めていないだろうが、これからも頑張れよ。担任として俺も期待しているからな」


「はい、先生の期待に応えられるよう頑張ります」

 礼をして職員室を出て教室に戻ると、誰もいない教室で一人ハスミンが待ってくれていた。


「あれ、わざわざ待っててくれたんだ」

「あ、うん。一緒に帰ろうかなって思って。迷惑だった?」


「まさかだよ。待っててくれてありがとう、じゃあ帰ろうか」

「うん、一緒に帰ろう♪」


 帰り始めてすぐ、


「ねぇねぇ、呼び出しって何だったの?」

 ハスミンが興味深そうに尋ねてきた。


 最近ハスミンは俺のことをよく聞いてくるようになった。

 好きな子に興味を持ってもらえるのは、当然だけどとても嬉しい。


(なによりこんな風に興味をもってもらえるくらいには、ハスミンの中の俺の地位も向上してるってことだよな)


 夏休み明けで名前を忘れられていた2学期始業式の日と比べたら、もはや雲泥の差だ。


「たいしたことじゃないよ、今回の中間テストの話。全教科満点は開校以来初だからわざわざ教えてくれたんだってさ」


「ふへぇ、開校以来初かぁ。すごいなぁ……」


「そういうハスミンだって20位以内に入ってたじゃないか。これで1学期の期末に続いて2回連続だろ? 充分すごいと思うけど」


「ギリギリ20位だったけどね。微妙なのがだいたいマルかサンカクで部分点もらえたからラッキーだったかな。特に数学が苦手なんだよねぇ。どんどん難しくなってくるし」


「ま、今日のところは勉強の話は忘れようぜ。これで12月の期末までテストについては考えないでいいんだしさ」


「だね! あ、そうだ。昨日メイが言ってたんだけど――」


 俺はハスミンと他愛のないおしゃべりしながら家路についた。

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