第43話 じょうとうのたけだ……?

 男の子の風船を取ってあげた後、ハスミンから、


「さすが修平くん」

「しんじられないよ」

「すごいの一言」

「世界最強じゃない?」

「そんなこと言って実は最近イケてるとか思ってるでしょ?」


 と散々おだてられていた俺だったんだけど。

 そんな俺に突然2人組の男が声をかけてきた。


「アニキじゃないっすか、お久しぶりっす!」

「っす!」


 視線を向けた先にいたのは――、


「ええっと……誰だっけ?」

 申し訳ないけどまったく見覚えがない相手だった。

 

「修平くんのお友だち?」

「いや違うよ。全く記憶にない人だ」


 俺はハスミンとともに首をかしげた。


 しかし嬉しそうに駆け寄ってきた2人組は、俺の前で背筋を伸ばした見事な気を付けをすると、やたらと親しげに話しかけてくるのだ。


「アニキがお元気そうで何よりっすよ!」

「っす!」


「ああ、ありがと? っていうかほんとに誰だっけ? 人違いじゃないかな?」


「ちょっ! アニキはいきなり冗談きついっすね!? 俺っすよ俺、城東の武田っす!」


「じょうとうのたけだ……?」


「はいっす!」


 上等? 常套? ジョウトウ?

 マジで誰だ?


「あ、もしかして! ねぇねぇ修平くん、ほら、始業式の日にコンビニの前でわたしを助けてくれたでしょ? その時の相手って――」


 あっ! て顔をしたハスミンが、俺の耳元に口を寄せると囁いた。


「ああ! 城東高校の武田先輩な! 髪は黒いしスポーツ刈りになってたから、全然分からなかったよ」


 前はチャラい金髪ロン毛だったのに、黒髪のスポーツ刈りとか変わり過ぎだろ。

 もはや別人なんだけど。


「更生しろってアニキに言われたんで、手始めに髪も黒く短くしたっすよ!」


「あー、そう言えばそんなことを言ったっけか」

「言ったっすよ! アニキの言葉には絶対服従っす!」


 ハキハキと元気よく答える武田先輩。


 それにしてもだ。

 シャツの裾はきっちりズボンの中に入ってるし、ズボンは腰ばきしてないし、無駄に優しい目つきをしてるし。

 こんなもん1回しか会ってないのに同一人物だって分かるかよ。


「その『アニキ』ってのはなんなんだ? 2年と1年だからそっちの方が先輩で、俺のほうが年下だろ?」


「アニキはアニキっすから年齢は関係ないっすよ! 徳の高さがアニキなんっす!」

「まったくっす! アニキは男の中の男っす! さすが姐さんが選んだ人っす!」


「ああそう、そりゃどうも……」


 なんかもう説明しても聞いてくれなさそうな雰囲気だからスルーしよう……特に害があるわけでもないし……。


「あの、ごめんなさい。わたしも質問なんだけど、もしかして姐さんってわたしのこと?」


「アニキの大切な人っすからね、姐さんが姐さんっす!」


「いや俺とハスミンはそう言う関係じゃないから」

「そ、そうだし! ただの友達だし!」


「あれ、そうなんすか? すげー仲良さそうに見えたんすけど?」

「見えたっす! マブラヴって感じだったっす!」


「ハスミンとは仲のいい友達だよ」

「そ、そうだし! 友達だし!」


「それはすんませんっした!」

「っした!」


 武田先輩と子分がそろって大きく頭を下げた。


「まぁそれはいいよ。ところで二人してこんなところで何をしてるんだ?」

「敬老会のお手伝いっす!」


「敬老会?」


 またこいつらとは一番縁がなさそうなワードが出てきたんだが??


「アニキに真っ当に生きるように言われたからっす! 最近はボランティアとか人のためになることを色々やってるっす!」

「敬老会のお手伝いはその一環なんすよ!」


「え、ああうん……そりゃいい心がけだな……」


「あざっす! アニキの期待に応えられるよう頑張るっす!」

「っす!」


「お、おう……」


「じゃあそろそろ行くっす! 明日は松本さんの100歳の記念誕生会なんで! 準備の手伝いするんすよ!」

「するっすよ!」


「おう、頑張れよ……」


「アニキに言われてめっちゃやる気出てるっすよ! よし行くぞ!」

「うっす!」


 そう言うとすっかり別人のようになった武田先輩と子分は、俺たちの前から立ち去って行った。


(あーなんだ。この前は軽く脅したつもりだったんだけど、ちょっとやりすぎたかな? 漏らすほどビビらせたせいか、なんか恐怖で強制的に人格矯正されちゃってないか?)


「あの人たち、前の時と比べてなんか全然雰囲気違ってたよね?」

「驚くほどに違ってたな」


「多分あの時の修平くんがよっぽど怖かったんだよ」


「みたいだな。ま、他人に迷惑をかけなくなったどころか、率先して誰かのためになるようなことをしてるんだから、良かった……のかな?」


 とりあえず俺はそう思っておくことにした。


 それにしても人って変われば変わるもんなんだなぁ。

 なんてことを元陰キャの俺が言うのもなんだけどさ。

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