第44話 今川先輩(1)
「おい、そこの1年。お前が織田修平だな? ちょっと付き合えよ」
文化祭と中間テストが終わり、いつもの高校生活が戻ってきた10月の中頃。
今日は弁当がなかったので昼ご飯を買いに購買に向かっていた俺は、途中の廊下で先輩5人組に呼び止められていた。
ネクタイの色を見るに全員3年の先輩だ。
「そうですけど、何の用ですか先輩? 俺今ちょっと急いでるんですけど」
俺はやんわりと断ったんだけど、5人組の中のリーダー格っぽいのが一歩前に出ると、
「お前最近調子乗ってんだよ」
やたらと上から目線の偉そうな感じでいきなりそんなことを言ってきた。
さらに残りの4人が追従するように「そうだそうだ」「イキってんなよ1年」と口々に騒ぎ立てる。
どうやら残りの4人は前に出たリーダー格の男の取り巻きのようだった。
「えっと、急にそんなこと言われても困るというか、そもそも先輩はどこのどなたですか? 今まで俺と先輩ってなにか接点ってありましたっけ? ちょっと記憶にないんですけど」
陰キャ時代の俺は先輩と話すどころか、智哉以外のクラスメイトと話すことすらほとんど皆無だった。
昔の俺は一事が万事そんなだったから、もしこの先輩と話したことがあれば、主観時間で5年が経過していようとも絶対に覚えているはずだ。
しかし5年前の記憶を思い出そうとしても全くかすりもしないあたり、俺とこの先輩が知り合いってことはないはずなんだけどな。
「はぁ? オレのことを知らないのかよ? まったく、最近の1年はバカばっかだな」
「なにぶん交友関係があまり広くないものでして」
「ちっ、オレは3年の今川だよ」
「はぁ、そうですか今川先輩」
だからその今川先輩とやらはいったい誰なんだってば?
先にそこを説明してくれよ。
「おいおい、マジで知らないのかよこのクソバカ1年。そんなどうしようもないバカなお前に、1つ忠告をしておいてやる」
「忠告、ですか?」
「蓮見佳奈に近づくのはやめろ。あいつはこのオレが狙ってるんだからな」
「申し訳ないんですけど、俺が先輩にそんなこと強制される言われはないと思うんですが」
そこまで言って、
(あ、こいつそう言えば……)
文化祭の時に『1-5喫茶スカーレット』にやってきて、ハスミンにチャラく声をかけてきた男子の一人だと俺は思い出していた。
ハスミンに『お前を俺の女にしてやる、感謝しろ』とか『俺も忙しいんだけどさ。お前がどうしてもって望むなら、今から学校を抜け出してホテルに行ってやってもいいぞ』とか、常軌を逸したアホなことを言っていた奴だ。
ナンパのセリフにしても酷すぎるその誘い文句にブチ切れ寸前だったハスミンは、頬をヒクヒクと引きつらせながらも必死に愛想笑いを作って『お断り』していた。
(それにしても先輩ってだけでやけに偉そうな奴だな? だいたい年齢が上なら偉そうにしていいってんなら、俺の精神年齢は異世界での+5年があるからあんたよりも大人なんだぞ?)
まぁその証明は絶対に不可能だから言わないけどさ。
「おいこら。1年のくせに、このオレに向かってあんまり舐めた口をきいてるんじゃねえぞ」
「そうは言っても俺と先輩は赤の他人ですよね? なのに俺の交友関係を、先輩にあれこれ言われる理由ってありますか?」
「そんなことは関係ないんだよ! クソ庶民の分際で、このオレの邪魔をするなと言ってるんだ!」
おいおい、初対面なのにこれまた酷い言われようだな。
「クソ庶民って……さっきからやけに偉そうですけど、そういう先輩は貴族かなんかなんですか?」
俺をクソ庶民って言うからには、純日本人に見えるけど実は今川先輩は英国貴族かなんかなのか?
「はっ、マジのマジで知らねぇのかよ。お前と話してるとバカすぎてほんと疲れるぜ。オレの父親はな、政財界に強い影響力を持ち、現総理大臣の竹中晋三の盟友とも言われる今川グループの会長なんだよ!」
「はぁ」
だからそれがどうしたんだよ?
そんなことより俺は早く購買に行きたいんだっつーの。
「なんだ、驚き過ぎて言葉も出ないか」
「いえ、特に感想がなかっただけです」
「なにぃっ!?」
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