第4章 体育祭

第52話 再開する日常

 親の権力を笠にきて舐めた真似をしてくれた今川先輩を、異世界から持ち帰った勇者スキルを使って親子ともども完膚なきまでに捻り潰した俺は。

 気分一新、平和な高校生活をリスタートした。


「おはよう修平くん」

「おはようハスミン」


「ねぇねぇ修平くん、昨日の数学Iの宿題の問3ってできた?」


 すがすがしい気分で朝登校すると、ハスミンがあいさつもそこそこにそんなことを聞いてくる。


「できてるぞ、三角比の応用問題だよな?」


「あそこどうしても解けなかったんだよね。良かったら教えてくれないかな?」


「もちろんいいぞ。どこが分からなかったか知りたいからノート見てもいいか?」


「はいこれ。えっとね、この辺まではできそうだったんだけど……」


 ハスミンは俺の机にノートを開くと、ずいっと顔を寄せてきて一緒にノートをのぞき込みながら、つまづいたところを指差した。


 俺の頬にわずかに触れるハスミンの髪がなんともこそばゆく。

 さらにはふんわりといい匂いも漂ってきて、俺は自分の胸がドキドキと高鳴っているのを自覚していた。


(最近のハスミンはこんな感じで結構距離が近い気がするんだけど、俺が変に意識しているだけでただの気のせいなんだろうか?)


「ふんふん、そういうことか。あとここなんだけどさ――」


 もちろんそんな感情はまったくおくびにも出さずに、俺はいつものように笑顔で解き方を指南していく。


 朝から隣の席の女の子に宿題を教えてあげるとか、実に青春してるもんな。

 陰キャだった灰色の中学時代と比べたら、今のところはこれでも充分すぎるほどに充分だ。


 今はこれで良し。

 しばらくはハスミンとの関係性を深めていって、時期が来たと感じたら告白しよう。



 そんな風にハスミンとは宿題の話をしたり、バンドメンバーのみんなとカラオケに行ったり。

 他にも文化祭のミニ四駆勝負で負けた時の約束のケーキを奢ったりと、俺とハスミンは特に大きな進展はないもののそれなりに仲良く過ごしていた。



 そうこうしているうちに、文化祭と並んで2学期の2大イベントとも言える体育祭の時期がやってきた。



「じゃあ誰もいないみたいなので1500メートル走は俺が出場します。これで全種目が確定です。何か意見がある人がいれば言ってください。今ならまだ調整も楽なので」


 クラス委員としてホームルームの司会進行していた俺は、ここまでの内容をまとめるように言うと軽くクラスを見渡す。


「異議なーし!」

「なーし!」

「いいと思うー」


「では異論はないみたいなので、以上で体育祭の参加種目を確定とします。今日はこれで解散です、お疲れさまでした。あああと、各リレーの参加者は最低1回くらいはバトンパスの練習をしておいてください」


 イベントに関する司会進行も、文化祭に続いて2回目ともなれば俺も手慣れたものだった。


 そしてクラスの出し物があって、準備から本番までたくさんの仕事があった文化祭と違い。

 クラス全員の出場種目をホームルームで決めた段階で、体育祭で俺がやるべき仕事は終了なので、後は俺も一参加者として体育祭を楽しむつもりだった。


 ちなみに俺が出場するのは、男子1500メートル走と、男子100メートル走、そして男女混合スウェーデンリレーの3種目だ。


 後ろ2つは高得点が配分された花形種目で、クラスの優勝のために運動能力が高い俺が選ばれた。


 そして1500メートル走はしんどい上に目立たない断トツの不人気種目でやりたい人がいなかったので、俺が引き受けた。

 うちのクラスは長距離走が得意な陸上部やサッカー部がいないからな。


 まぁ1500メートル走が一番しんどくて、一番地味で――つまり超絶人気がないぶっちぎりの不人気種目なことは運営側もちゃんと理解をしていて。

 1500メートル走には、花形種目と同等に近い高得点が割り振られている。


 だから1500メートル走は学年別の総合優勝を目指す上で、1位を取れるなら取っておきたい競技なのだ。


 そういうわけで、俺が出る種目はポイントが高い種目ばかりなので、全て1位を目指してクラスに貢献できるようにがんばろう。


 ちなみについでにスウェーデンリレーっていうのは1000メートルの距離を、1人目が100メートル。

 2人目が200メートル。

 3人目が300メートル。

 そして最終アンカーが400メートルと、走る距離が100メートルずつ増えていく運動会や体育祭ではお馴染みの変則リレーのことだ。


 各学年ともに最後の種目になっていて、しかも全競技の中で最も高得点が入るため、優勝を狙うには1位必須の競技とされている。

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