第48話 今川先輩の末路(ざまぁ)
数日後。
「聞いたか修平。今川先輩、父親の証人喚問の日以来一度も登校してないんだってよ」
休み時間に俺がトイレに行こうと教室を出ると、智哉が駆け寄ってきて、並んで歩きながら嬉しそうに言った。
「そうらしいな」
今川会長が証人喚問で洗いざらい白状して以降、その息子が通ううちの高校もマスコミのターゲットになっていて、登下校の時間になるとマイクとカメラを持ったメディア関係者たちが、生徒のコメントを取りにわんさかやってくる。
ここにのこのこやってくるような鋼メンタルを、あの今川先輩が持っているとは思えなかった。
一応、俺たちも先生からはマスコミには何も答えないようにとは言われている。
だけど今川先輩は全校生徒から嫌われていた――どころか相当恨みを買っていた――のもあって、生徒たちは過去の今川先輩の悪行をこれでもかと片っ端から喋りまくっていた。
それは先生方も同じで、口ではマスコミには答えるなと言っていても、特にそれを強く指導するようなことはなかった。
今川先輩を憎々しく思っていたのはきっと先生たちも同じで、内心ではもっとやれと思っているに違いない。
「両親や親戚が芋づる式に逮捕されてるし、今川先輩の大学受験に関しても不正がばれたんだってさ」
「あの先輩ならさもありなんだな。どんな不正をしてたんだ?」
「それがな、父親に頼んで帝應大の学長だか理事長だかにすんごい裏金渡して、成績が全然足りてないのに強引にうちの指定校推薦枠にねじ込んだのがバレたんだと」
「どうせそんなことだろうと思ったよ」
「当の本人は、週刊誌に追い回されて外も出歩けないらしいぜ。今川先輩は俺たちと違ってもう18歳で未成年じゃないからな。マスコミも結構容赦ないみたいだ。もちろん指定校推薦は取り消しだってさ、ざまぁ見ろだ」
「今川グループの御曹司なら裏口入学くらいいくらでもできるだろうにな。なのに見栄を張ってわざわざ指定校推薦で入学しようとするあたりが、いかにも小者だな」
「しかも今川先輩の成績って、本当は下から数えたほうが早かったんだと」
「ほんとメチャクチャやってたんだな。確かうちの高校の帝應大指定校推薦って、成績上位10人の中から1人だけなんだろ?」
なにが『この時期に推薦が決まってる頭脳明晰なオレを見習え』だ。
本来は別の人間が手にするはずの権利を、裏金と圧力で横取りしてたんじゃないか。
「うちの校長も、言うこと聞かないと来年から指定校推薦無くすぞって圧力かけられてたんだとよ」
「なんかもうやることなすこと酷すぎて、話を聞くだけでため息が出てくるんだが」
よくもまぁここまでわがまま放題好き放題できたもんだ。
「そんな悪の秘密結社状態だったのに、まさかこんなことになるとはなぁ。証人喚問見たか? ネットはもうお祭り騒ぎだぜ? 俺も昨日寝てないもん。2ちゃんの祭りに徹夜で参加しててさ。ふぁーあ、眠ぃ……」
よく見ると智哉の目の下にはクマができている。
「SNSも匿名掲示板もすごいことになっているみたいだな」
「なんせ今川会長がいきなりペラペラ本当のことをしゃべりだすんだもんな。あれってやっぱ最後の最後で、人間の良心ってやつが働いたのかねぇ」
「そうかもしれないな」
もちろん実際のところは今川会長に良心があったわけでもなんでもなく、俺が勇者スキルで女神アテナイの誓約をかけたからなのだが。
ま、これは俺だけが知っていればいい内緒ごとだ。
「でも修平には良かったじゃないか? そのおかげで蓮見さんとも自由にお付き合いできるんだから」
「なに言ってんだ智哉。別に俺はハスミンと付き合ってるわけじゃないよ」
急に見当違いなことを言ってきた智哉に、俺は小さく笑いながら言葉を返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます