第47話 異世界を救った勇者、怒りの制裁。(ざまぁ)
――数日後。
俺は仮病で学校を休んで、自分の部屋でNHKの国会生中継を視聴していた。
今日は衆議院で、今川グループ会長である今川元義の証人喚問が行われるのだ。
ちょうど今テレビを通して、衆議院本会議場に今川会長が姿を表したのが見えた。
「出てきたな悪の親玉め。悪いが今日は容赦はしないぞ。俺は怒っているからな。恨むなら俺じゃなくて自分のドラ息子を恨めよ?」
予定通りに10時から今川会長の証人喚問が始まるのに合わせて、
「女神アテナイよ、彼の者に真実の口を授けたまえ。清きは清く、正しきは正しく、義は義に。それが世界と人の
俺は勇者スキル『ジャッジメント』を発動した。
このスキルは真実を述べると宣誓した相手に対して、嘘を言わせないという女神の誓約を与える力だ。
俺がスキルを発動してから少し後に今川会長が宣誓を行うと早速、野党議員による疑惑追及の証人喚問が始まった。
「時間も限られておりますので単刀直入にお伺いします。週刊誌で報道された今川グループによる5億円にも上る不正献金疑惑は事実ですか? 事実とすれば、全て会長であるあなたが裏で指示をしていたのではないですか? 国民の前で正直にお答えください」
元アナウンサーの経歴を持つベテランの女性野党議員が、舌鋒鋭く今川会長を追求する。
「はい、議員ご指摘の通りです。201X年〇月✕日に自明党の
すらすらと悪事を白状した今川会長の答弁に、
「とぼけようと思っても無駄です。私の入手した内部文書によると――――はい? えっ? あの? えっとすみません。い、今なんと仰いましたか?」
絶対にあり得ない回答をされた女性野党議員が、動揺を隠せないままに慌てて問い直す。
「議員ご指摘の通り、201X年〇月✕日に自明党の三科幹事長に幹事長室で直接5億円を手渡しました。目的は防衛装備品納入に際しての巨額随意契約の見返り、キックバックです」
「えっと、その、つまり今川会長。あなたは一連の疑惑を認めるというのですか?」
「議員の指摘された内容を全て認めます。私は5億円の不正献金を行いました。ちなみにその場には三科幹事長の他に、竹中総理と副総理も同席しておりました」
衆議院本会議場がものすごいざわめきに包まれ、NHKは即座に「今川会長、5億円不正献金を認める。三科幹事長の他、竹中総理、副総理も同席」と速報テロップを出した。
「そ、その証拠となる物は何かありますか?」
「その時の会話を録音した音声データが残っています。先だっての強制捜査で見つからないように、元秘書の実家に録音したデータの入ったSDカードを隠してあります。そこには竹中総理が『次の随契もまた今川に回すから、同額をよろしく』と発言した音声も入っています」
国会が騒然とし、
「う、嘘だ! そいつは嘘を言っている! 偽証罪で捕まえろ!」
顔を真っ赤にした竹中総理が立ち上がって叫んだ。
「静粛に! 静粛に!」
コンコンと議長が木槌を叩き、竹中総理は周囲になだめられるようにして座り直した。
「か、確認しますが、この場での証言は全て真実なのですね? もし嘘だった場合は、あなた自身が偽証罪に問われるのですよ?」
まさかの展開に、ベテラン野党議員が声を上ずらせながら問いかける。
「はい、私の言ったことは全て真実です。他にも5億円の裏金の出所などのデータも全て、海外子会社の隠しサーバーに残っています」
「あ、ありがとうございました……。ほ、他にも今川グループには自明党への迂回献金疑惑などもありますが、それに関してはどうなのでしょうか?」
「政党支部や選挙団体を通しての迂回献金を日常的に行っており、毎年それぞれ3億円の献金が竹中総理と三科幹事長に渡っております」
「黙れ! こいつの言ってることは全部嘘だ! 私を嵌めようとしているぞ!」
「静粛に! 静粛に! 静粛にして下さい!」
その後さらに今川会長が様々な疑惑について全て白日の下に晒したことで、内閣は即日総辞職となった。
そしてこの証人喚問をきっかけに今川グループには再度の強制捜査が入り、政界との癒着が次々と明るみになる一大スキャンダル事件として世間を賑わせたのだった。
後に今川グループは分割・解体されて様々な企業に吸収合併されることになるのだが。
その辺りのことは俺にはまったく関係のない話である。
俺は真実を話すと宣誓した正義感溢れる会長さんが、その言葉のとおりに真実を明るみに出すお手伝いを、ほんの少ししてあげただけだからな。
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