第46話 作戦会議

「――ってなことがあったんだが。智哉は今川先輩って知ってるか?」

 俺は今川先輩に絡まれたことを一番の友人である柴田智哉に話してみた。


「ああ、3年の今川先輩な。もちろん知ってるぞ。結構有名だろ? 修平は知らなかったのかよ?」


「3年の先輩までアンテナ立ってなかったんだよな」


 陰キャ時代はクラスの中でいかに目立たず平穏無事に過ごせるかしか考えていなかったから、他の学年について俺ははほとんど知らなかった。


「あいつメチャクチャ嫌われてるんで有名なんだぞ? 絡んできた時、ありえないくらい偉そうだっただろ」


「こんな人間いるんだな、って思うくらいすごかったな。っていうか、やっぱ嫌われてたんだなあの先輩」


 俺もまさか初対面で馬鹿だのクソ庶民だの言われるとは思ってもみなかったけど、 智哉の話ぶりから察するに、どうやら今川先輩は他の人間にもああいう態度を取っているらしい。


「しかも親があの今川グループの会長だろ? 総理大臣とか国会議員、他にも教育委員会に警察、大学関係者にも顔が利くらしくて、あいつがやりたい放題やってもうちの先生も校長もビビってなんも言えないって話だぜ」


「なるほどね」


「しかもあいつ、1年の時はどっかのいいとこの私立に行ってたらしいんだけどさ」

「そうなのか? なのになんでうちみたいな普通の公立校に来たんだ?」


「なんか元皇族だか華族だかの、金や権力でも解決できないやんごとなき身分の子供といさかい起こしたとかなんかで、うちの高校に逃げるように転校してきたんだってよ」


「あの先輩ならさもありなんだな」

 今川先輩ってのは想像通りの――いや想像以上のクズのようだった。


「しかし酷ぇよな。親の勤め先を倒産させたくなかったら蓮見さんと仲良くするなとか、完全な悪役ムーブじゃん。今どき漫画でもそんなベタな悪役いないぞ?」


「だよなぁ」


(異世界『オーフェルマウス』でもここまで露骨な悪役はそうはいなかったぞ。ある意味凄い。もちろん悪い意味でだが)


「それでどうするんだよ?」

「今はまだ考え中」


「そっか。でもいくら考えたって、高校生が何かやってどうにかなるもんかね? なんせ今川先輩の父親は巨大グループの百戦錬磨の会長で、現職総理大臣の盟友なんだぞ? いくら修平が夏休みに一皮むけたからって、高校生がどうにかできる相手じゃないだろ?」


「完全な上級国民だもんな」


「おうよ。しかも上級の中でもさらに上級の、超上級国民ときたもんだ。子の不道徳は親譲りって言うけど、ほんと親が親なら子も子だぜ。親子そろって上級国民は何にしても許されるって思ってやがるもんな。やな世の中だよなぁほんと」


 智哉が何気なく言ったその言葉がふと引っかかった。


「なぁ智哉、今のってどういう意味だ?」


「ん? ああ、あいつの父親は疑惑の総合商社って言われてるんだよ。総理や与党幹部への不正献金疑惑が週刊誌にすっぱ抜かれて、近々国会で証人喚問されるらしいぜ」


「証人喚問って、たしか国会に呼ばれて虚偽の答弁が許されない状況で質問に答えるんだよな?」


「そうそう。まぁ虚偽答弁が許されないって言っても『記憶にございません』だの『訴訟に関わることなのでお答えは差し控えさせていただきます』だの答えていればいいだけの、簡単なお仕事なんだけどな」


「智哉って結構そういうの詳しいんだな。アニオタの振りして実は社会派だったのかよ?」


「いんにゃ全然? よくネットで話題になってるから知ってるだけ。『記憶にございません』とかもよくネットでネタにされてるからさ」


「ふーん、でも証人喚問ね……」


「あいつの父親がトチ狂って、証人喚問でポロっとほんとのこと言っちゃったら面白いのにな。ま、そんなことは万に一つもないんだろうけど」


「世の中そんなもんだよな」


「まぁなんだ。とりあえずあと半年もしたら3年はいなくなるんだし、しばらくは蓮見さんと距離を置いて静かに過ごしたほうがいいんじゃないか?」


「そうだな、ちょっと色々考えてみるよ」

「悪いな、あんま力になれなくて」


「いや、知らないことを色々教えてくれてめちゃくちゃ助かったよ。サンキューな智哉。恩に着る」


 智哉にはそう答えたものの。


(証人喚問か、なるほどこれは使えそうだな)

 この時既に、俺の頭の中ではとあるプランが浮かび上がっていた。

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