第30話 文化祭ライブ
「さーて! 次に登場するのはバンド名『スモールラブ』! バンド名だけでモンパチやるって分かるいい名前だねぇ! 中学時代から軽音やってる女の子4人組の1年生バンドだってさ! いいねぇ可愛いねぇ! ――のはずだったんだけど、なんとギターの子がケガをしちゃって急きょ代役で男が1人入ってやがる! なんだそれ羨ましすぎだろ! 俺と代わりやがれそこのラッキーボーイの1年男子! 織田修平、名前覚えたからな!」
司会進行をする3年生放送部のノリノリの紹介で会場が笑いに包まれる中、『スモールラブ』&俺は体育館の舞台に上がった。
もちろんケガをした新田さんも一緒だ。
ここで一人ハブるのはさすがにない。
4人揃っての『スモールラブ』だ。
というかサビの部分はハスミンと新田さんのツインボーカルでいくので、ギターを弾かないにしても新田さんは欠かせない存在だった。
逆に俺は正規のメンバーではないので、あまり目立たないように後列のすみっこに立つ。
(あくまでこれはハスミンたちのライブだからな。俺はわき役に徹しないと)
ハスミンがアイコンタクトで全員と確認をしてから、ドラムのスティックカウントに合わせて演奏が始まった。
演奏曲はモンパチことMONG〇L800の文化祭定番ソング「小さな恋のうた」。
俺たちが生まれる前の大昔の曲なのに、こうやっていまだに高校の文化祭で歌われるほどの超定番の文化祭ソングだ。
疾走感のあるアップテンポの曲調に合わせて、ハスミンが力強く小さな恋の歌を歌い上げていく。
「ボーカルの子めっちゃうまくない?」
「しかも超可愛いじゃん」
「1年なんだよな、何組の子?」
「1年5組の蓮見佳奈、可愛いって評判なのに知らないのかよ」
「俺あの子好きかも!」
「っていうか他のメンバーもみんなうまいし!」
すぐに観客がハスミンの歌声やバンドの完成度の高さに歓声を上げ始めた。
(確かにすごいな。練習で聞いた時よりもはるかに力強くて情熱的で、感情を揺さぶってくる声だ)
しかも中学から一緒にやってるだけあってハスミンたちの息はピッタリだ。
だから俺はそれに合わせることを意識するだけで十分だった。
曲が進みサビに入ると新田さんがボーカルに加わって、体育館中がさらにさらにと盛り上がっていく。
ハスミンたちへの大きな歓声が飛ぶ中、俺の耳は時おり自分に向けられた声を拾っていた。
「後ろの端で目立たないようにしてるけど、あのギターの男子メチャクチャうまくね?」
「マジ上手いな」
「上手い通り越してプロレベルじゃね?」
「っていうかあれ誰なん? 1年にあんな男子いたか?」
「さっき司会が言ってただろ、5組の織田だよ」
「織田ってあれだろ、バスケ部レギュラーの伊達が授業のバスケでこてんぱんにやられたって相手。運動神経がマジヤバイらしいぜ」
「それ俺も5組の奴に聞いた! しかも織田はバスケ未経験なんだってよ」
「なんだそれ!? そんな奴が音楽も出来んのかよ!? スーパーマンかよ!?」
「しかも1学期は敢えて猫かぶって目立たないように陰キャの振りをしてたらしいぞ。2学期になって急に本気を出し始めたらしい。英語とかネイティブレベルでペラペラなんだと」
「いやあの、そんなことする意味が分からないんだが……」
「ははっ安心しろ、俺にも分かんねぇよ」
「えっ、俺は夏休みにマグロ漁船に乗せられて人格が変わったって聞いたんだけど」
「それ俺も聞いた! 引っ込み思案だったのが、あまりに過酷すぎて鋼メンタルになったって」
「それなら俺はフランスの傭兵部隊に入って中東で戦ってたって聞いたぞ?」
「それだけはねーよw 俺ら高校生だぞw」
「おまえ頭大丈夫かよw」
(なんだかいつの間にか、俺に関する根も葉もない噂が立っているみたいだな)
ただまぁマグロ漁船とか可愛いもんで、ほんとのところは異世界で5年も勇者として戦い続けてたんだよなぁ。
そう言う意味ではフランスの傭兵部隊ってのが実は一番近いのかも?
そうこうしているうちに歌はクライマックスに突入した。
ハスミンが汗を光らせながら最後のフレーズを高らかに歌い上げる。
演奏が終わり全ての音が鳴りやむと同時に、大歓声と万雷の拍手が体育館を埋め尽くした。
ハスミンが息を切らせながら元気よく礼をするのに合わせて、俺たちも一斉に頭を下げる。
そして額に汗を滴らせながら俺たちを振り返ったハスミンが、
「イェイ!」
最高の笑顔でVサインをした。
舞台の中央でスポットライトを受けてとびっきりの笑顔を見せるハスミンに。
俺はかつてリエナが語ってくれた、民に勇気と希望を与え導く女神アテナイの姿を重ね見る。
(本物の女神のように綺麗だ――)
とまぁそんな感じで『スモールラブ』&俺の文化祭ライブは、文句なしの大成功に終わったのだった。
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