第31話 文化祭終了
ハスミンたちとのライブが大成功に終わって少しだけ余韻を楽しんでから、俺とハスミンは1年5組へと戻ってきた。
『1-5喫茶スカーレット』にて俺は再びホットケーキを焼き、ハスミンは接客係をする。
そしてハスミンたち『スモールラブ』のライブが大成功だったのもあって、1年5組には主に男子生徒たちがハスミン目当てに殺到していた。
皆が皆、狙ったようにハスミンを指名する。
「蓮見さんだよね? さっきのライブ見たよ。俺もモンパチ好きなんだよね。そうだ、今度一緒にカラオケ行かない? 連絡先教えてよ、誘うからさ」
「ごめんなさい、連絡先の交換はサービス外なんです。注文が決まったら呼んでくださいね」
「蓮見さんって言うんだよね。あ、だからハスミンなんだね。可愛い名前だね。ねぇねぇ、良かったら今度の土曜日にデートにでも行かない? 全部おごるよ?」
「ごめんなさい、初対面でいきなりデートに誘ってくるような男の人は苦手なんです」
文化祭の浮かれ気分そのままにチャラチャラと群がってくる男子たちを、ハスミンが笑顔で一蹴していく。
(……なんかちょっとムカつくな)
ハスミンに群がる男子たちを、カフェとバックヤードを仕切る暗幕の隙間からのぞき見た俺は、自分がちょっとだけイライラしていることに気がついていた。
(おかしいな? 5年の異世界生活で鋼メンタルを手に入れた俺は、少々のことじゃ動じなくなってるはずなのに、なんだか妙に心がザワザワするぞ?)
「織田くん、ホットケーキ追加で4枚お願いねー」
「こっちも2枚追加ー」
しかし今は多忙なこともあって、俺はとりあえずその感情を忘れることにした。
まずは目の前の仕事を片付けないとな。
俺は綺麗に焼き上がったホットケーキを紙皿に移すと、盛り付け係の女子に渡す。
そして追加のホットケーキ6枚を焼き始めた。
「おーい織田、ホットケーキミックスが次で最後の一箱だぞ」
「サンキュ、じゃあそろそろ打ち止めだな。ごめん、呼び込み係に完売のプラカードを持って行って、入店を止めてもらってくれないか?」
「りょうかーい!」
俺の指示を受けた売り場係の女子が、『ありがとうございます、完売しました!』と書かれたプラカードを持って廊下に向かった。
すぐに、
「ごめんなさーい! 1年5組『1-5喫茶スカーレット』は完売でーす! もうこれ以上は入店できませーん!」
完売を告げる元気な声が廊下の方から聞こえてくる。
(よし、あとは今いるお客さんの注文分を焼き上げるだけだ)
そのままラストスパートで最後の1箱分を焼き上げたところで、俺はお役御免となった。
「やったな織田!」
「もう完売だぜ!」
「一番乗りじゃね?」
「ああ、それもこれもみんなが協力して頑張ってくれたおかげだ。ありがとうな、みんな」
クラスの出し物は無事に完売し、さらにはハスミンとの文化祭ライブも大成功。
俺はクラス委員として大きな満足感を覚えていた。
「なに言ってんだよ織田、お前がうちの大将だろ」
「ほんとだぜ、なに謙遜してんだよ」
「お疲れ織田、色々やってくれてありがとな」
「俺こんな楽しい文化祭は初めてだったよ、ありがとう!」
「おまえら……」
俺はホットケーキ係の男子たちと順番にグータッチをして喜びを分かち合った。
そしてまだお客さんは残っていたけど、調理系の方はこれ以上はすることが何もないので、先にバックヤードの片づけを始めていく。
片付けと言ってもホットプレートの電源を落としてる間に、ゴミをまとめるだけの簡単なお仕事だけど。
並行して会計係と一緒にお金を何回か数え、現段階では1円たりとも違算がないことを確認する。
その後お客さんが全員退出すると、教室を原状復帰する前にクラスみんなで集合写真を撮った。
「じゃあ撮るぞ、ハイチーズ!」
「「「「「イェ~~~イ!!」」」」」
クラス全員で黒板の前に集まった俺たちを、担任がスマホで何枚も撮影してくれる。
真面目なポーズ、全員でピース、おバカポーズ、全員で肩を抱き合ったポーズなどなど、文化祭の思い出が次々と記録に残されていく。
「あー疲れたー」
「でも楽しかった!」
「俺も!」
「みんなお疲れさん!」
全員に転送されてきた画像に写るみんなの顔は、誰もかれも喜びと嬉しさでいっぱいだった。
唯一表情が分からないロボ智哉も、なんとなく誇らしげな気がした。
そしてそれはもちろん俺も例外ではなく。
陰キャ時代には到底考えられなかった充実した文化祭に、俺は満ち足りた気分でいっぱいになっていた。
その後はしばらくあれこれクラスみんなで盛り上がった後、教室の片づけを始める。
朝から慣れない出し物をしてみんな疲れているはずなのに、充実感があるからだろう、その動きはみんな軽快だ。
率先してきびきび動いてくれるクラスメイトたちのおかげで、教室はすぐに元の姿を取り戻した。
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