第2話

 中学校に上がると、俺が周りに適応するのでなく、だんだんと周りが適応するようになっていった。

 例えば、中学校の入学式。恒例となりつつある母さんの抱き枕持ち込みを諫める言葉は


「総司、抱き枕は中学校に持って……………………いけば?」


 と、諦めを感じさせる投げやりな台詞になっていた。

 そして入学式。予定調和のように隣に置いた俺の抱き枕は、またしても予定調和ように女の子を佇ませていたのだが……


「総司! そろそろ気がついてよね! あんたの隣に座れるのはあたしだけなんだから。早くそれ、どかしなさい!」 


 幼稚園の頃は、泣いているだけだった女の子は、中学では俺に悪態をつくまでに成長し、理解ある幼馴染になっていたのだった。

 中学ではクラスメイトの顔ぶれにほとんど変化はなかったため、特に何かをするまでもなく、俺は周りに溶け込むことができた。


 教師に関しても、俺の事は小学校から知らされている様で、特に何も言ってはこなかった。

 だから、中学校での俺はおとなしかった。

 そんな退屈そうな俺を見てか、妹の加奈は


「兄さんは、勉強できるし、運動神経も抜群。顔だって、凄くかっこいいんですから、抱き枕を捨てて部活でもやったらモテモテになるんじゃないですか?」


 そう言われてどこかの部活を入部しようと思ったが、抱き枕を持ったままじゃ何処の部活も断られたのは、言うまでもない。

 結局、俺はどこにも入部をしなった、というより入部出来なかった。

 そうだからと言って、俺の中学生活は平穏とはほど遠かった。

 例えば――


 トラックに轢かれそうになっていた女の子を抱き枕をクッションにして助けた。

 更に、街角でパンを咥えて走っていた女の子とぶつかりそうになった時、抱き枕で防いだりもした。

 前者はクラスメイトで、後者は転校生だった。


 二人とはその後も交流があり、弁当を作ってもらったり一緒に出かけたりと、意外と青春らしいこともしていたりする……もちろん抱き枕込みの青春という注釈が付くが。

 しかし、この二人は、幼馴染の菜ノ葉はとは仲が悪いようで会うたびに口喧嘩をしていた。


 菜ノ葉曰く、『幼馴染が負け属性の時代は、終わったのよ……』とのこと。

 正直、俺には乙女心というものは分からない、抱き枕の事なら分かるんだがな……。

 他にも、生徒会や風紀委員と一悶着あったりしたもしたが、概ねこんな感じで俺の中学校生活は過ぎていった。


 そして俺は、高校生になった。

 加奈からは高校に上がるとき、


「兄さんの奇怪な行動を監視できなくなるこの1年間が、いつも1番嫌いです。1年したら私も同じ高校に通うんですから、恥ずかしい行動は控えてくださいね。兄さん」


 なんて言われたけど、兄さん奇怪な行動なんかした覚えなんかないから、とりあえず普段通りの兄さんで高校も頑張るよ。と、意気込んでいたのは記憶に新しい。

 高校の入学式の時、ついに母さんは抱き枕に関して何も言わなかった。


 やっと、母に俺の思いが通じたのだと思う。

 幼馴染の菜ノ葉は、俺よりも早く入学式に来ており、『お前の抱き枕の席ねーから』と、無言で語っていた。


 加奈以外にも、見知った顔は大勢いた。

 これならば高校も中学みたいに、おとなしく過ごせるのではないか。と、そう思っていた。

 実際、1年間はおとなしい高校生活を満喫することが出来た。


 でもそんな平穏をぶち壊したのは、俺のもっとも尊敬していた父の言葉だ。

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