全てが完璧な俺だが枕が武器ってどういうこと!? 枕投げがスポーツとして定着している学園で最弱クラスを俺が最強にする!

太刀風邪

第1話

 いつから憧れと抱き枕を抱いていたかは、今はもう覚えていない。

 気づいた時にはそれが夢になっていたし、抱き枕も持っていた。

 きっとどちらも父さんの影響なのだろう。


 俺の父さん――#双見雄二__ふたみゆうじ__#は、『双見枕製造会社』の社長だ。

 人に厳しく、自分に更に厳しくという父さんの性格と、枕への異常なまでの愛情は、『双見枕製造会社』を一代にして国内枕企業ナンバー2にまで会社を成長させた。


 そんな父さんの背中を見て育った俺は、父に憧れ、常に抱き枕を持って生活するようになっていった。


 しかしそういった夢には、得てして障害が付きまとうものだ。

 最初の障害は幼稚園の入園式の日。

 いつも優しかった母さんが俺に現実を突きつけてきた。


「#総司__そうじ__#、抱き枕は幼稚園には持っていけないわよ。だから置いていきましょう」


 母は微笑みながらそう言ったが、その微笑は天使のそれではなく、悪魔の微笑だった。


 きっと母さんは俺が抱き枕を常に離さない理由を、子供がお気に入りのぬいぐるみを常に持ち歩いているような、年相応の可愛らしいモノだと思ったのだろう。だから幼稚園の入園を機に俺から抱き枕離れさせようと考えたのだ。


 だが、俺にとっての抱き枕はそんな小さな存在ではない。

 きっと抱き枕を手放してしまったら、自分が自分ではなくなってしまう。そんな大切なモノなのだと、子供ながらに思っていたのだ。


 だから、俺は母さんの反対を押し切り、抱き枕を幼稚園に持って行った。

 ちなみにだがこの時、俺が隣の席に置いた抱き枕のせいで、座れずに泣いていた女の子がいたんだが、それが今では毎朝俺を起こしに来る幼馴染になった。枕から始まる人間関係というモノだな。


 そして、俺の戦いはここから始まる。

 なにせ、抱き枕を幼稚園に持って行ったのは入園式の日だけではない。

 毎日だ。


 母には毎度毎度止められたし、周りからもいろんな嫌がらせなんかも受けた。

 だけれども、俺は毎日抱き枕を持って行った。

もちろん、何度も挫けそうになって何度も持って行くのを辞めようかとも思った。

 でも、俺は毎日抱き枕を持って行った。


 それは俺が、父さんの『人に厳しく、自分に更に厳しく』という生き方に憧れていたから。

 ここで諦めたら、憧れから遠のいてしまう。


 そんなのは嫌だ!

 抱き枕は俺だ!

 俺自身なんだ!

 俺は俺を否定する事なんかできない!

 だから、俺は抱き枕を毎日持っていくだ!


 そう吹っ切れた俺は、いつのまにか自分の邪魔をするクソ園児を抱き枕で吹っ飛ばしていた。

 それからの幼稚園は戦場と化した。

 ばぶばぶ保母膝枕大戦や、第二次お昼寝枕大戦。ロリショタ抱き枕争奪戦など、数々の死闘を繰り広げ、俺は『白い死神』という二つ名と共に徐々にみんなから認められていった。


 そして、卒園を迎えるころには俺はいつの間にかにみんなのヒーローになっていた。

 卒園式の日には、迷惑をかけた担任先生に、先生をモデルにした等身大抱き枕『保母さんのばぶみ授乳抱き枕』を作ってプレゼントしたりもした。


 プレゼントを貰った先生は顔を真っ赤にして泣いていたから、きっと嬉し泣きをするほど喜んでくれたのだろうと、当時は思ったものだ。

 また、当時年中さんだった1個下の妹はよくこう言っていた。


「兄さんとの血縁を恨む……」と。


 出来のいい兄を持つと大変だということだろうか。

 それから俺は小学校に入学することになる。

 入学式の日、またしても母さんは俺に微笑ながら入園式と同じような言葉を言った。


「総司、抱き枕は小学校には持っていけないわよ。だから置いてきなさい」


 もちろん抵抗した。

 抱き枕で。

 母さんとの激しい戦いののち、俺は抱き枕を入学式に持っていくことができた。


 この時、俺が隣の席に置いた抱き枕のせいで座れないでいた女の子は、2年前と同じように泣いて……はいなかった。

 ただ『またかぁ』と、言いたそうな表情で抱き枕をどかし、自分の席に座った。

 そして、またしても俺の戦いは始まる。


 戦場は幼稚園から小学校へ変わり、俺の敵も変化していった。

 幼稚園の時は、まだ幼いからと先生は抱き枕の持ち込みを許してくれたが、小学校ではそんな甘えは通じない。


 先生は『勉強の妨げになるから』と、俺から抱き枕を取り上げようとしたのだ。

 流石に、こればかりは勢いでどうにかなるような問題ではない。

 だけど、俺はこう考えてしまった。


 抱き枕を持っていると勉強の妨げになる……本当にそうか?

 逆に、抱き枕を持っていることで勉強は捗るのではないか?

 もし、誰も試したことがないのなら、俺が試して証明すればいいじゃないか?


 我ながら、天才だと思ったね、これは。

 だから俺は先生にこう言うしかなかった『勉強の妨げにならないのであれば、抱き枕の持ち込みを許してくれますか』、と。

 その日から俺は学校のテストで満点以外の点数を取らなくなった。


 ついでに、抱き枕は運動の妨げにもならない。ということも実証するため、徒競走でも、水泳でも、サッカーでもすべて抱き枕を持った状態で挑み、どれもトップの成績をおさめた。

 しかし、それだけでは周りは納得しなかった。


 当時は、友達も少なかったし、いじめも受けた。

 原因は分かっていた、抱き枕だ。

 だけど、それを解決したのも抱き枕だった。


 枕剣――俺が自作した抱き枕の剣。

 枕であり剣であるそれは男子小学生の心を掴んだ。

 俺はその枕剣をクラスの男子全員に配り大きな声で宣言した。


「さあ、#剣__まくら__#を取れ! 俺に文句がある奴はそれを使って掛ってこい!」


 #枕__けん__#と#枕__けん__#とがぶつかり合う教室で、俺は本気でみんなと戦い、語り合うことで、友達を得ることが出来たのだった。

 その日を境に男子はみんな枕ピロー剣ソードを学校に持ってくるようになった。


 クラスの女子と仲良くなったのは、それから少し経ったバレンタインデーのあたりだったりする。

 チョコレート枕――バレンタインの日に好きな子にこれを投げ投げつけよう! という俺の企画が女子の間で人気になり、バレンタインデー当日はクラスで『チョコレート枕』投げが行われたのだ。


 そういえばその日、クラスの女子全員が俺に枕チョコレートを鬼のように投げつけきたけど、それは好意なのか殺意なのかは今でも謎だ。

 好意という話つながりになるのだが、妹の加奈かなもこの時は年頃だった。


「兄さんと洗濯は一緒にしないでください」 


「なんだ反抗期か?」


「違います、ドン引期です! いつも抱き枕を振り回してる兄さんを軽蔑してるんです!」


「悲しいこというなよ、今度加奈の等身大抱き枕を持って登校するぞ?」


「脅迫するにしてももう少しやり方を考えてください! 一応妹ですよ私!」


 なんていう、兄妹ならではの喧嘩などもあったり……。

 大変なことも多かったが、こうして俺は小学校も自分の満足のいく形で卒業を迎えることが出来たのだった。

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