裏33話 全滅?(※三人称)

 、相手の指揮官に覚醒技があるなんて。思いも寄らぬ誤算だった。炎のような、怪しげな光に包まれる少女。彼女は自分の剣に魔力を注いで、その刀身を真っ黒に染め上げた。


 ライダルは、その光景に震えた。マティやマノン達も、それに不快感を示した。彼等は程度の差こそあれ、少女が何かしらの進化を果たした事、向こうの側がより有利になった事を悟った。「不味いな」

 

 そう呟いたマティにマノンも「そうね」とうなずいた。二人は不安そうな顔で、少女の覚醒を見まもりつづけた。「これは、思った以上に危険かも」

 

 ライダルは、その言葉に生唾を飲んだ。三人の中で最も弱い彼であったが、少女の覚醒に関しては、二人と同じくらいに「危ない」と思っていたからである。少女が自分の剣に「ニヤリ」として、自分の側に視線を移した時も、それの見せる表情に震えて、彼女から視線を逸らしてしまった。「こんな、こんな事って!」

 

 少女は、その言葉を無視した。彼女が彼のところに走ろうとした瞬間。ゼルデがその突撃を阻んだからである。ゼルデは同じ覚醒状態の彼女に抗って、その攻撃を何としても防ごうとした。だが、その勇気も無駄に終わる。相手と同じ条件でも、その力にはっきりとした差があった。ゼルデは相手の攻撃を防ぐどころか、それを見事に弾かれて、近くの建物に身体を叩きつけられてしまった。少女は、その光景に目を笑わせた。


「無様ですね? 取って置きを使っているくせに? そんなにもやられてしまうなんて」


「くっ、うっ」


 ゼルデは建物の壁から何とか出たが、身体の痛みがどうも激しいらしく、その場にどうにか立つ事はできたが、それ以上は動く事ができないようだった。相手の方に杖を向けた動きからも、彼が満身創痍である事が窺える。彼はライダルが思う以上に参り、そして、疲れかけていた。「こ、のぉお」


 ライダルは、その言葉に走りだした。それを聞いて、「彼の事を助けなければ」と思ったからである。彼はたった一度しか使えない奥義、「スキル殺し」を使おうとしたが、相手に「それ」を使おうとしたところで、ハルバージに「それ」を阻まれてしまった。


「なっ!」


「させない」


 ハルバージは、ライダルの身体を蹴飛ばした。ライダルが彼に剣を振るおうとした瞬間、彼の横腹に向かって回し蹴りを入れたのである。「お前如きが! 彼女の神聖な戦いを」


 マティは、その続きを潰した。自身の相棒である大剣を使って。「そんな事など知るか」


 ハルバージは、その言葉に怯んだ。言葉の意味で怯んだのではなく、マティの攻撃が思った以上に重かったからである。それをどうにか捌いた後も、マティがまた大剣を振り落とした事で、ライダルに対する意識をすっかり奪われてしまった。


「うっとうしい!」


「ふんっ」


 マティは「ニヤリ」と笑って、自分の大剣を構え直した。大剣の表面には、周りの光景が映っている。「それくらいしないと引かないだろう? 貴様等は俺の見た限り、魔王の遊撃部隊だ。『あの娘の復讐が主目的だ』としても、実際は無法の迷惑集団に過ぎない。迷惑集団には、これくらいの鬱陶しさで充分だ」


 ヴァインは、その言葉に苛立った。彼女からすれば、これは文字通りの正義。「正義」の名が付いた、報復だったからである。報告は、被害者への正当な権利。それをこんな風に否めるのは、彼女にとってどうしても許せなかった。ヴァインはハルバージも含め、その全員に向かって「そいつらは、悪人よ! 悪人に容赦は要らない。全員、斬り殺してください!」と叫んだ。「私が許します。ハルバージ君への意見は、私への意見と見做す」


 仲間達は、その言葉にうなずいた。マティ達と戦っていたハルバージも、彼女の意見に「当然さ」と微笑んだ。彼等は互いの時宜こそ違うが、それぞれの調子に合わせて、例の覚醒魔術を解きはなった。「コイツ等、意外と強いからね? あまり遊んでもいられない。ここまで追いこんだなら、あとは一気に潰してやる!」


 少女達は、その言葉に怯んだ。特にミュシアは透明化のスキルが破られた事で、相手の攻撃をもろに食らってしまった。少女達は自身の最強技、あの牙虎や遊撃竜達にも使った最強奥義で抗ったが、相手の方がやはり上らしく、多少の時間は稼げたものの、最後にはやはり競り負けて、戦闘向けの面々は重傷、戦闘向けでない面々は瀕死の状態になってしまった。「こ、こんな、こんなのって……」


 少年達は、その言葉に歓んだ。ヴァインも、敵の醜態に微笑んだ。彼等は魔王の軍団らしく、その大いなる力を持って、地面の上から立ちあがろうとした相手には蹴りを、彼等に「止めて」と願うマノン顔も、平気な顔で「うるさい」と踏みつけた。「人間風情が調子に乗るからだよ」


 マティは、その光景に苛立った。が、その瞬間に攻撃を、ハルバージの攻撃を受けてしまった。それを防ごうとしたライダルも、彼の得物に倒されてしまって。彼等はゼルデが見つめる前で、敵の攻撃に倒れてしまった。「すまない、ゼルデ」


 ゼルデは、その言葉に打ちふるえた。これが最悪の状況、自分だけが残ってしまった状況に。彼は自分の前に敵達が立ってもなお、無感動な顔で仲間達の身体を眺めつづけた。

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