第171話 反撃へ

 運命の再会。それを疑っていたわけではないが、それが実際に起こると、やはり喜ばずにはいられなかった。そして、自分の大事な人達が、この窮地を知ってくれた事に。ただただ、喜ばずにはいられなかった。


 俺は「ライダル」と名乗る少年を立たせて、少女の背中に目をやった。少女の背中は、俺を守るように立っている。「ミュシア……」

 

 ミュシアは、その言葉に振り向かなかった。それ自体には応えてくれたが、その目は敵をじっと見つづけていたのである。「会いたかった、ずっと」

 

 俺は、その言葉に胸を打たれた。彼女もまた、「俺と同じ気持ちだったのだ」と言う風に。「俺もずっと、会いたかった。ミュシアに」

 

 ミュシアは、その言葉にうなずいた。彼女の顔は分からないが、その耳を真っ赤にして。「皆も、来てくれた」

 

 俺の大事な仲間達も、彼女の後に続いてくれた。彼等は俺の周りを囲むと、(人数の上では、有利なためか)楽しげな顔、あるいは、華やかな顔で、真ん中の俺に「ただいま!」と笑いはじめた。「もう、本当に心配しんだよ?」

 

 そう笑うシオンにつづいて、クリナも「まったく」と笑いだした。「無茶と無謀は、貴方の専売特許ね。追いかけても、追いかけても、すぐにいなくなる。捜しあてるのに苦労したわ」

 

 クリナは「ニコッ」と笑って、自分の剣を構えた。それを見ていたマドカも、彼女と同じような顔で「クスクス」と笑っている。二人は武器持ちのそれらしく、互いの武器を光らせて、正面の敵をじっと睨みだした。「三十、ちょっとか? ううん、ちょっと面倒だね?」

 

 そう呟くマドカにリオも「数は互角でも、何か隠し球がありそう」とうなずいた。リオは「それ」に同意を求める目つきで、近くのヒミカに目をやった。ヒミカもまた、彼女と同じような表情を浮かべている。「こっちの人数に驚いているだけで」

 

 ヒミカは、その言葉にうなずいた。自分もまた、「彼女と同意見だ」と言う風に。「特に怖がってはいない。敵の表情を見てみても。彼等は、それに怯えないだけの力を持っている」

 

 コハルも、その言葉にうなずいた。彼女は自分の額に指先を付けると、不安な顔で何やら考えはじめた。「先手を打つ? 今は一応、膠着状態のようだし。あちらの力が分からない以上は」

 

 相手の力を少しでも削ぐ。それはアスカも同意見だったようで、コハルがそう呟くと、自分の持っている刀を構えて、相手の方をじっと睨みはじめた。「こちらから仕掛ける。相手は、魔物の集団だ。少しでも気を抜くと」

 

 それにつづいて、「殺られる」と唸るクウミ。クウミは自分の小太刀をくるくる回して、その正面にまた構えなおした。「ここは、殺られる前に殺った方がいいよ。でなきゃ」


 こちらが殺られる。それはキブキも分かっていたようで、俺が「それ」に「うん」とうなずくと、彼女も「それ」に倣って、「そうだね」とうなずいた。彼女は自分の得物を構えて、相手の方にまた向きなおった。「ここで止めないと、みんな!」

 

 サクノは、その言葉に眉を潜めた。それに重なったトモネやワカコもみんな、彼女の言葉にうなずいている。三人はそれぞれに敵への不快感を見せていたが、ヤエだけは一種の余裕を見せていた。


 ヤエは「ニコッ」と笑って、自分の仲間達を見わたした。「怖がっていても、しゃあない。始めから危ない事は、分かっていたんや? 最初から危険な事にイチイチビビる事ぁない!」

 

 サクノ達は、その言葉に表情を変えた。それを上空から聞いていたユイリ達も、その意見には「確かに!」とうなずいている。敵の方に銃口を向けているボウレ達も、彼女の意見には「まったくだ」と笑っていた。


 彼等は陸から、あるいは空から、「敵の動き」をずっと見はりつづけた。「少しでも動いたら、すぐにぶっ放してやればいい。アイツらの体に風穴を明けてさ? 風通しのいい体にしてやる!」

 

 ニィは、その言葉に震えた。それに「そうだワン!」とうなずけるカーチャと違って、こう言うノリにはついていけないらしい。彼女の隣に立っているティルノも、彼女と同じような表情を見せていた。


 彼女達は(「一応の策」として?)自分達の楽器を構えたが、愛用の大鎌を構えたチアに「無駄よ」と言われると、一人は自信の口元から笛を離し、もう一人は聖書の頁から視線を逸らして、彼女の顔に視線を移した。「で、でも!」

 

 チアは、その続きを遮った。ニィの期待をたしなめるかのように。「相手は、殺る気満々だもの。そんな小細工が通じる相手じゃない。下手な希望を抱けば、反対に殺られてしまうわ。笛も聖書も、私達の援護くらいにしか使えない」

 

 ニィは、その指摘にうつむいた。俺も「それ」に眉を寄せたが、ライダル(と呼んでいいだろう)の方は冷静な顔で、相手の大将を睨みはじめた。「だからこそ、一気に仕留める。彼等はきっと、手下だ。頭目の支持に従う下僕、その戦いに慣れた魔物達。彼等は個々の力は強くても、その頭を倒してしまえば」

 

 その統制もすぐに失われる。(彼の表情から察して)「そんなに簡単」とは思えなかったが、それが最善の手である以上、彼の意見に「違う」とは言えなかった。俺は敵の大将を見つめたが、かつての師匠に「できるな?」と訊かれると(あの人がなぜ、ミュシア達と一緒なのかは分からないが)、それに「はい」とうなずいて、マティの顔に視線を移した。マティの顔は穏やかで、その相棒たるマノンさんも微笑んでいる。


「はい!」


 できなきゃ、この町が滅ぶから。


「町の崩壊を防ぐ為にも! この戦いは、絶対に勝ってやる!」


 俺は自分の杖を構えて、あの覚醒魔法をまた使った。敵の大将を何とか倒すために。

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