第170話 絶体絶命

 迷ってなんかいられなかった。敵の人数が多い以上、一対多数の戦いを長引かせるわけにはいかない。周りの様子から考えても、ここは「先手必勝」しか考えられなかった。俺は例の覚醒技を使って、相手の方に攻めよった。


 が、相手も決して馬鹿ではない。最初はこちらの攻撃に驚いていたが、参謀役らしい少年が周りに「散れ」と言うと、例のヴァイン・アグラッドはもちろん、それに付きしたがっていた者達も揃って、俺の周りから離れはじめた。だから、最初の一撃も空振り。次の一撃も、全体の合わせ技で防がれてしまった。

 

 俺は、その光景に苛立った。それが物語る連携力、その団結力にも苛立った。俺は相手が思った以上にやる事、覚醒の継続時間を鑑みても、「これは何が何でも、短期決戦に持ち込まなければ」と思った。「他の冒険者達が駆けつけるよりも前に少しでも数を減らしておかないと!」

 

 反対にやられる。人数の上ではこちらが勝っていたが、敵の一体、一体が「一騎当千」と言わんばかりに強かったので、仮に援護がやって来ても全滅、最悪は全員死亡も考えられた。今はまだ、様子見の状態を保っているけれど。華やかな奴等が何やら目配せしている様子からは、今の状況を変えようとする意思、何かしらの作戦らしきモノが窺えた。この町をこれ以上壊されないためにも、彼等に「それ」を使わせるわけにはいかない。


 俺は「槍」と化した「杖」を構えて、弱そうな敵が一人ずつ潰しに掛かった。だが、そう簡単にはいかないらしい。味方の力が強かったのか? それとも、敵の力が弱かったのか? 今まで町の四方に散っていた仲間達が、それぞれの課題を片づけて、この場所に集まってきたのである。彼等は俺の置かれた状況を察すると、自分の負った傷を忘れて、敵の少年達に挑みはじめた。「よくもやってくれたな! 全員残らず、ぶっ潰してやる!」

 

 少年達は、その声に驚いた。驚いたが、それに怯む事はなかった。彼等は覚醒状態の俺を無視して、俺以外の冒険者を一つ、また一つと、紙を切るように殺してしまった。「何だよ? 『もうちょっと強い』と思ったのに? ゼルデ・ガーウィンの方が」

 

 俺は、その言葉を遮った。彼等の事を助けられなかった事もあって、その声に「うるさい!」と怒鳴ってしまった。俺はまた、自分の杖を振りまわした。「お前等全員、倒してやる!」

 

 少年達は、その言葉に苦笑した。特に「ウィラー」と呼ばれた少年は、俺の言葉に「やれやれ」と呆れていた。彼等は大人数の利を活かして、俺の周りを取り囲んだ。「頼みのお仲間達も葬ったし。そろそろ、あの世に逝って貰おうか?」

 

 俺は、その言葉に眉を寄せた。それに「うん」とうなずけば、この町が本当に終わってしまう。彼等とは何の関係もない人達も、その命を奪われてしまうのだ。個人の恨みが動悸になっているのなら、それに周りの人を巻き込んではいけない。俺はたった一人残された状況で、その絶望に何とか抗おうとした。でも、「くっ!」

 

 現実はそう、甘くはいかない。俺がどんなに抗っても、それ以上の反撃が返ってくる。彼等は一体多数の状況に加えて、隙のない攻撃をつづける事で、俺の体力をどんどん削っていった。「オラ、オラ、どうした?」

 

 そう叫んだ奴は、「ゴンバ」と言う名前らしい。彼の後に続いた「ボーノ」や「ゾルト」、「ウスカ」や「ユーディン」と呼ばれた少年達も、彼と同じ荒くれ者だった。


 それに続いた「モルノ」や「トネリ」、「ミネル」や「カウヤ」、「セモン」と言う少年達はやや落ちついていて、彼等に続いた「エペナ」や「イクル」、「コンフィ」や「ズオウ」、「ブオ」と言う少年達も大人しい感じだったが、「ビュルツ」と呼ばれた少年から続く一行は妖艶な感じ、「ディーウ」と呼ばれた少年から続いた一行は根暗な感じ、そして、「ハルバージ」と呼ばれた少年から続いた一行は、華やかな印象を覚えた。


 彼等は俺に波状攻撃を仕掛け、俺が「それ」に弱るところを見はからい、最後のハルバージに繋げて、自分の剣を次々と振りおろした。「終わりだ」

 

 俺は、その声に抗った。声の怒気には怯んだが、それを何とか防げたのである。俺は敵の剣を捌くと、自身の体勢を整えて、後ろの方に下がろうとしたが……。そこに待ち伏せしていた奴が一人、「チョラ」と呼ばれた少年が、俺の方に剣を向けていた。「このっ!」

 

 相手は、その声に「ニヤリ」とした。陰湿な感じの「ニヤリ」ではなかったが、華やかな連中特有の悪戯心は感じられた。彼は自分の剣を煌めかせると、それを振りまわして、俺に「お前に恨みはないけどね。悪いけど、死んで貰うわ」と囁いた。「ヴァインちゃんの夢を叶えるためにもね?」

 

 俺は、その声に抗えなかった。それに抗おうとした瞬間、例の覚醒魔法が消えてしまったからである。俺は敵の攻撃に吹き飛ばされると、いくつもの建物を貫いて、最後の外壁に叩きつけられてしまった。「ぐわっ、くっ!」

 

 彼等は、その声を喜んだ。特に好戦的な印象を受ける奴等は、俺の反応を心から楽しんでいた。彼等は俺の前に歩みよって、その目の前に剣を向けた。「じゃあな、ゼルデ・ガーウィン。お前はここで」

 

 終わり。それは俺も思ったが、どうやらそうはならなかったようだ。俺の目の前で止められる、敵の剣。それに驚く、相手の表情。相手は目の前の光景に怯んでいたが、俺の方はそれよりももっと驚いていた。俺は相手の剣を止めている人物、俺と同い年くらいの少年に目を奪われた。「君、は?」

 

 少年は、その質問に答えた。俺の心をそっと包むように。「ライダル。僕は、君の事を助けに来たんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る