嬢30話 無意味な抵抗(※一人称)

 そうすれば、楽になる。自分の気持ちも軽くなって、その良心からも解きはなたれる。まるでそう、気持ちの楔を引き抜くように。あらゆる苦しみから解きはなたれるのです。普通の人は「それ」に苛立つかも知れませんが、自分の悪が走りはじめた私には、それがとても気持ちよく感じられました。。それがたとえ、どんなに悪い事でも。今の私には、「それ」に抗うだけの力がありませんでした。「悪は徹底して、悪になるべき」

 

 私は「クスッ」と笑って、仲間達の顔を見わたしました。仲間達の顔は、その言葉に(根暗組は別ですが)喜んでいます。「潰してしまいましょう、こんな奴等。この私に逆らおうとするなんて、本当におこがましい。今こうして、息を吸っている事自体も。彼等には、文字通りの生き地獄を見せなくちゃいけません」

 

 仲間達は、その言葉に微笑みました。特に妖艶組のコンファ君は、根暗組のウィラー君と違って、私の言葉を心から喜んでいます。私の言葉に「ニコッ」と笑いかえす程、その残虐性を露わにしていました。彼は私よりもずっと幼い容姿でありながら(縞模様の半ズボンから見える素足が妙に色っぽい)、私よりも凶悪極まりない顔で、自分の頬に付いていた返り血をペロリと舐めました。「その通り! コイツ等には、本当の地獄を見せなきゃ!」

 

 ウィラー君は、その言葉に眉間を寄せました。その言葉自体を否めるつもりはないようですが、彼個人としてはあまり快くないようです。自分に迫っていた敵の攻撃を払った時も、それに対する相手の苛立ちは別して、彼自身は「もう、引っ込んでくれ」と思っているようでした。ウィラー君は憂鬱な顔で、自分の敵をじっと見つめました。「ここら辺でもう、引いてくれないかな? あんた等が頑張るほど、その犠牲に増えるわけだし。ここは、大人しく痛み分けと行こうよ?」

 

 相手は、その言葉を聞きませんでした。言葉の意味としては分かっても、それを受けいれるつもりはなかったのでしょう。ウィラー君がまた敵に「頼むから」と言った時だって、それに「黙れ!」と返す程でした。敵は自分達の側が押されていてもなお、自身の闘争心を決して忘れようとはしない。自分の剣をまた構えて、ウィラー君の身体を「何としても斬ろう」としました。敵は鋭い眼光で、ウィラー君の身体に斬りかかりました。ですが、そんな攻撃にやられるウィラー君ではありません。相手の方は本当に本気でしたが、彼の方は「やれやれ」と呆れていました。敵は、彼の反撃をもろに食らった。「なっ!」

 

 ウィラー君はまた、その声に呆れました。相手の事を見くだしたわけではない。その声にただ、「やれやれ」と思ってしまったようです。彼は相手の腹にもう一撃入れて、それから残りの部分をバラバラにしてしまいました。「本当に呆れる。俺達は、魔王軍の精鋭だぞ? 軍の後ろに控えている精鋭。本当ならこんなところにいる、筈」

 

 そこから先を言わなかったのは、私への配慮だったのかも知れません。彼は自分の右から攻めてきた敵を蹴りとばして、ついでに左から斬りかかった敵も薙ぎ倒してしまいました。「ああもう、しつこい! こっちは、色々と忙しいんだ。軍団長(多分、私の事でしょう)の標的もいるし。お前等とこうして、遊んでいる暇はない」


 敵は、その言葉に苛立ちました。苛立った上に「ああん?」と唸った。敵はこちらの想像を超えて、今の言葉に殺意を覚えていました。ですが、それに怯むウィラー君ではありません。相手がどんなに怒っていても、それに怯むどころか、それを見ていたコンファ君と一緒に「やれやれ」とがっかりしていました。彼等の反応を見ていたシュンリ君やキルビ君には、「アハハッ」と笑われていましたけど。二人はそれぞれに戦う相手こそ違いますが、自身の剣を構えたところは同じで、それから敵の斬りかかった時宜も同じでした。


「まったく、そんなに死にたきゃ」


 これは、ウィラー君。それに続いたのはもちろん、コンファ君でした。「すぐに逝かせてあげるよ、天国にね?」


 二人は、敵の身体を切り裂いた。敵の身体がバラバラになる程、素早い動きで剣を動かしたのです。二人はウィラー君にキルビ君、コンファ君にシュンリ君が話しかけるまで、互いの背中を合わせていました。「懲りないな、本当に」

 

 キルビ君は、その言葉に苦笑しました。彼もまた、ウィラー君と同じような雰囲気ですが。一人称が「ボク」、その服装もかなり地味な事もあり、ウィラー君よりも暗い雰囲気が感じられました。彼が掛けている黒縁眼鏡も、それに雰囲気を添えていますし。


 彼は自身の身長こそ平均でしたが、その雰囲気には影がある少年でした。「うん、流石に参っちゃうよ。倒しても、倒しても、倒しきれないなんて。本当に疲れる。ボクならすぐに逃げるよ。相手がどんなに少数だって、自分達よりもずっと強いなら。すぐに戦略的撤退を取る。この人達は……あまり言いたくないけど、頭が弱いのかな?」


 私は、その言葉に苦笑しました。特に「頭が弱い」と言う部分、これには思わず吹き出してしまった。私は彼が意外と毒舌である事、そして、本人が「それ」を分かっていない事に「クスッ」と笑いました。「そうかも知れない。だから、私達で分からせてあげましょう。『貴方達の抵抗は、無意味だ』って事をね?」

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