嬢25話 ヴァインの狂気(※一人称)

 乱戦。いや、「激戦」と言うべきか? とにかく激しい戦いでした。相手が自分に剣を振りおろせば、自分も相手に剣を振りあげる。自分が相手の身体に斬りこめば、相手もその刃を受けとめる。私も敵との戦いに全力を出していましたが、ここまで激しい戦いになるのは初めての事でした。


 私は……いいえ、私達は必死に戦いました。相手の数がどんなに多かろうとも、その人海戦術に抗いつづけました。自分達の誇りに賭けて、その戦いに「何とか勝とう」と思ったのです。例の好戦組も、その雰囲気にどっぷり浸っていました。彼等はゴルバ君を筆頭にして、目の前の敵と次々と倒しました。「おら、おら、どうした? お前等は、そんな程度なのか? 着ている装備は、豪華なくせに。みんな、みんな」

 

 弱すぎる。そう叫ぶのは、引きしまった身体のゾルト君。そして、その相棒らしきウスカ君でした。二人はほとんど半裸のような服装でしたが、「筋骨隆々」と言うわけではなく、服越しから窺える筋肉は、「痩せているのに引きしまっている」と言った感じでした。彼等の友達らしきユーディン君も、彼等ほどではないですが、かなりはだけた服装です。彼等は乱暴者のそれと同じく、喋る口調も乱暴、相手と話す内容もかなり下品でした。「雑魚が! 調子に乗るんじゃねぇよ! この俺達と殺ろうなんてさ? 『頭が逝っている』とすら思えねぇ!」

 

 相手は、その言葉に苛立ちました。それが安い挑発でも、彼等には不快だったのです。自分達の事をそんな風に言われるのは、いくら彼等でも許せないようでした。彼等は一流の冒険者(と思う)らしく、敵の挑発に苛立つ一方で、その怒りには「まったく」と落ちついていました。「弱い奴ほどよく喋る。自分達がこんなにも」

 

 追いつめられているのに? よくもまあ、そんな余裕が見せられるものだ。彼等はそう叫んで、私達の身体に武器を振りおろしました。剣の使い手は剣を、槍の使い手は槍を、弓の使い手は矢を、それぞれに振ったり、放ったりしたのです。私と戦っていた女剣士も、「私の意識が余所に向いている」と思って、私の左側から剣を振りまわしました。彼等は大軍の利を活かしつつ、たまたま開けていた場所も活かして、戦力的にも劣る私達をゆっくりと追いつめていきました。「ほら、ほら、どうした? いくら強くても、これじゃ防戦一方だぜ?」

 

 私は、その言葉に眉を寄せました。それが「トネリ君に向けられた言葉だ」と分かっていても、そう言われるのはやはり悔しかったのです。彼が相手の攻撃に怯んだ時も、その様子に思わず「あっ!」と叫んでしまいました。私は女剣士の剣を払って、彼の所に走りよろうとしました。


 ですが、それを許せないのが敵。「大軍」と言う、恐ろしい敵でした。彼等は私が女剣士の前から走りだそうとした瞬間、その意図をふと読みとったようで、私の救援が阻まれた事はもちろん、トネリ君の元にも新しい敵が集まってしまいました。私は「それ」が悔しくて、目の前の敵を思わず叩ききってしまった。「ふざけるな! どけ!」

 

 そう叫んだ声は、自分でも驚くほどに凶暴でした。私は、私の怒声に驚きました。怒声の中にある殺気、これにも驚きました。私は自分の倒した相手が倒れ、それが地面の上に倒れても、それから飛び散っ血が頬に当たる感触を覚えただけで、それ以外の感情をまったく抱きませんでした。


 私は、自分の狂気に従いました。狂気の声に従って、周りの敵を次々と倒しました。その敵がたとえ、自分よりも年下であろうと。自分の狂気、衝動、憤怒に従って、両手の剣を振るいつづけたのです。私は自分が自分でなくなっていく中で、自分の闇を解きはなちつづけました。「みんな、みんな、死んでしまえ!」

 

 そう言って、「アハハハッ」と笑う私。私は楽しげな顔で、目の前の少年を斬りころしました。ですが、それに怯み敵ではありません。「私」としては、自分が思う以上に「暴れた」と思いましたが。それもただ、そう言う風に感じただけでした。相手は、私の剣に退かなかった。退かなかった上に「負けるか!」とやりかえしてきた。彼等は私の剣に驚いてもなお、冷静な顔で私の前に挑んできました。私は、「それ」を迎え撃った。「まだ、やるの? まだ、やるなら」

 

 みんな、打ちたおしてやる。この剣の、怒りの感情に賭けて。みんな、私の手で葬ってやります。私は「ニヤリ」と笑って、敵の少年をまた一人倒しました。「どうだ!」

 

 敵は、その光景に苛立ちました。それを見ていた仲間の方は、とても喜んでいましたけど。彼等はそれぞれの立場に応じて、私の剣に「うぉおおお」と唸っていました。「なんて奴だ。『ただのお飾りだ』と思ったのに。まさか、こんなに強いなんて!」


 ありえない。そう思いたい気持ちも分かりますが、それも「時既におそし」です。彼等が私の力に怯む一方で、こっちは相手の命を奪っている。それこそ、好戦組(ボーノ君は、微妙な表情でしたが)が私の力に喜ぶように。敵の「身体」と言う身体を何体も、倒しつづけました。


 私は「それ」に喜んで、自分の剣を振るいつづけましたが……穏やか組の面々は、そんなに楽しんでいないようでした。彼等は敵と戦いこそすれ、その戦闘自体にはあまり乗り気でなかったのです。私は「それ」に驚いて、彼等の様子に目を見開いてしまいました。

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