嬢24話 大軍との戦い(※一人称)

 最悪の出会いでした。その時宜はもちろん、敵の数も最悪です。裏Aの冒険者よりはマシ(と思う)ですが、それでも大変な敵に出会ってしまった。敵は私達の存在に驚いているらしく、本来の目的を忘れて、こちらの様子を何度も窺っています。私達が彼等の「失せろ」と睨んでも、それにただ驚くだけで、その場から逃げようとはしませんでした。彼等は私達の事をしばらく見ましたが、やがて腰の鞘から剣を抜きました。「おい、貴様等!」

 

 私達は、その言葉に固まりました。特に頭脳派のグループは「これは、不味い」と思ったらしく、それに固まった事はもちろん、ハルバージ君のところに歩みよって、その耳元に「奴等の強さは別にして、ここは『逃げる』のが最善だろう」と囁きはじめました。「敵との戦力が、違いすぎる。真正面から戦うのは、かなりきつい。誰も死なないだろうが、余計な疲労を」

 

 ハルバージ君も、その意見にうなずきました。彼は周りの仲間達に目配せして、彼等に「逃げる時宜を見逃さないように」と訴えました。ですが、それに従わないのが好戦組。特に例の不満をまだ抱えていた、ゴンバ君には「冗談じゃない!」の指示でした。彼等はボーノ君の「バカ、寄せ!」を無視して、私の前に進みでました。「上等じゃねぇか? 一人残らず、叩きつぶしてやる!」

 

 相手は、その言葉に驚きました。それはどう考えても無謀、見たとおりの「怖い物知らず」だったからです。相手のリーダーも、これには「嘘だろう?」と呆れていました。相手は最初こそ戸惑っていましたが、好戦組がそれぞれに腰の鞘から剣を抜くと、それに「仕方ない」と諦めて、一人、また一人と、その姿勢に応じる構えを見せました。「こちらとしも、無駄な戦いは避けたかったが。仕方ない、全力で潰すぞ?」

 

 好戦組は、その言葉に叫びました。言葉通りの叫びを、そして、文字通りの歓喜を。今までの不満を晴らすように「うぉおおおっ!」と叫んだのです。それを止めようとしていたボーノ君も、これには「やれやれ」と諦めていました。好戦組は一部の例外を除いて、喧嘩上等のそれよろしく、敵の方に「死ね!」と突っ込みました。「敵の首を全員、はねろ!」


 相手は、その声に眉を寄せました。それが「彼等の挑発だ」と分かっていても、やはり嫌なモノは嫌であるようです。好戦組の振りあげた剣を受けとめる動き、その剣を弾きかえす動きからは、彼等の不満がしっかりと感じられました。


 敵は人数の差を活かして、好戦組も含めた私達の周りを囲みました。それが、ある種の威圧になった。少数の敵を倒す常套手段らしいそれは、私達にかなりの重圧を掛けたからです。私の近くに立っていたモルノ君も、この状況には流石に苛立っていました。「まったく! 余計な事をしてくれて」

 

 相手は、その声を無視しました。自分達が私達よりも有利な立場である以上、その声に応える意識もなかったのでしょう。ハルバージ君が相手の剣を弾いた時ですら、その光景にほとんど怯えていませんでした。相手は自分達の得意な戦法、有利な戦術を使って、私達の事を段々と追いこんでいきました。「人型の魔物か。でも、我々の敵ではない。この数が相手なら!」

 

 倒せる。それが彼等の、冒険者達の結論でした。私達の力がどうであれ、数の暴力には「敵わないだろう」と言う。実に単純な思考でした。それを何となく察した私も、彼等と同じ思考を抱きましたし。余程の戦術家でなければ、そう思いに違いありません。「この戦いは、絶対に勝てる」と、そう内心で思う筈です。ですが、それに怯む彼等ではない。相手の数がどんなに多かろうと、それに怯えるメンバーではない。彼等は普通なら怯えるような状況で、反対に「おっしゃあああっ!」と喜んでいました。「コイツらに地獄を見せてやる!」

 

 冒険者達は、その言葉に呆れました。呆れた上に怒った。彼等は自分達が魔物に舐められた事、自分達よりも少ない数の相手に舐められた事、それらが今も「ニヤリ」と笑っている事に「ふざけるな!」と怒りました。「舐めた口を利きやがって! そんなに死にたいなら!」

 

 今すぐに殺してやる、この剣と誇りに賭けて。冒険者達はそれぞれに武器を構えて、私達のところに次々と挑みはじめました。「みんな、仲よく殺してやるよ!」

 

 私達は、その言葉に震えました。それが怖かった事もありますが、何よりも「大変な事になった」と思ったからです。普段は悠然としている華やか組、冷静な顔でいる頭脳組も、この時ばかりは嫌そうな表情を浮かべていました。私達は裏Aの冒険者達と戦った時と同じ、覚醒状態になって、彼等の攻撃を迎え撃ちました。私も例の剣を出して、彼等の応戦に加わりました。


 私達は(ある意味で迷惑な?)好戦組の欲望に従って、本来なら避けられたかも知れない戦いに挑みはじめました。ですが、やはり思ったとおり。あの時と同じようにはいきません。一応は覚醒状態なので、相手の攻撃にも抗えてはいますが、その敵が次から次へと迫ってくるので、どうしても疲れてしまいます。しかも、「この人数を相手にするのは」と言う考えつきで。私達は正面の敵と何とか戦いながらも、(好戦組は別ですが)内心では「何とか逃げる方法はないかな?」と思いはじめました。

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