嬢22話 物足りない(※一人称)

 これは、「勝ち」と言うべきか? とにかく勝てた事は事実でしょう。冒険者達の姿はすっかり消えてしまったし、「そう見せかけた罠」とも思えませんでした。正真正銘の勝利、私達の完全勝利です。血の気の多い人達はかなり不満なようでしたが、ハルバージ君のような面々、モルノ君のような面々は、この結果に(一応は)満足であるようでした。


 私も、彼等の意見には同意見でした。それぞれが「覚醒状態にある」とは言え、最初は苦戦を強いられた相手です。あの段階では分からなくても、後から思わぬ大逆転が怒るかも知れない。「魔族」としての経験がまだ浅い私ですが、そう言う現実は何となく分かりました。相手が「撤退」の意思を見せた以上、こちらも相手を追いかけてはいけない。


 。その意味では、この判断も「正しい」と言えるでしょうが。それでもやはり、不満は消えません。残りの面々は別にしても、彼等だけは今の結果に苛立っていました。

 

 彼等は(「好戦組」と言うべきでしょうか?)不満げな顔で、それぞれの武器を振りまわしたり、地面の上を踏みつけたりしました。「ああもう、つまらねぇ! もう少しで仕留められたのに! いいところで逃げやがってよ!」

 

 私は、その声に震えました。その声がかなり怖い、つまりはドスが利いていたからです。普段の状態に戻ったトネリ君も、その声には思わず「う、うううっ」と泣きかけていました。私はその声を何とか宥めて、彼等の前に「落ちついてください」と歩みよりました。「敵はもう、いないんです。みんなが戦ってくれたお陰で、その」

 

 少年達は、その言葉を遮りました。その言葉に「ああん?」と怒った事もありますが、言葉の時宜自体に「クッ!」と苛立ってしまったようです。私がそれに怯えた時も、その反応に「チッ」と苛立つだけで、自分達の態度を「改めよう」とはしませんでした。


 彼等は「ああ、物足りねぇ。こんな程度の戦いじゃ」と唸っては、不機嫌な顔で地面の上を踏みつけたり、木の表面を蹴りとばしたり、石ころの何とかを投げとばしたりしました。「あんな糞共に当たるなんて! 本当に本当、付いていねぇや!」

 

 私は、その言葉に「ポカン」としました。言葉の意味はもちろん、その内容に呆れてしまったからです。確かに弱気なよりは強気な方がいいですが、これはいくらなんでも強すぎます。彼等が私の仲間でなければ、決して関わりたくない。ある程度の距離を取りたい人達です。彼等がたとえ、「本当は悪い人達ではない」と分かっていても。彼等の反応を見た今は、その気持ちもどこかに消えてしまいました。


 私は(自分の近くにたまたまいた)ハルバージ君の腕にしがみついて、少女小説(主に十代前半の女性を対象にした文学作品)の主人公と同じように「ヒィイイ!」と叫びました。「怖すぎるぅうう!」

 

 ハルバージ君は、その言葉に苦笑いしました。その言葉に「呆れた」と言うよりも、「大丈夫かな?」と思ったようです。私がまた「ヒィイイ!」と叫んだ時も、私の頭を何度か撫でて、私に「怖がらなくていいよ?」と言いました。「彼等はいつも、あんな感じだし。それにイチイチ怯えていると」

 

 少年達は、その言葉に怒りました。特に彼等のリーダー格であるゴンバ君は「それ」が許せなかったのか、ハルバージ君に「まあまあ」と宥められても、その怒りを決して抑えようとはしませんでした。彼等は自分達のリーダーを先頭にして。私の前に「ああん?」と詰めよりました。「てめぇ、俺等の喧嘩に文句があるのか?」

 

 私は、その言葉に首を振りました。それに「あります!」と応えたら、何を言われるか分かりません。ゴンバ君が私に自分の顔を近づけた時も(本人は威嚇のつもりでしょうが、かなりの二枚目なので少しドキッとしてしまいました)、それに思わず「ごめんなさい!」と謝ってしまいました。私は自分が悪い、悪くないに関わらず、真剣な顔で彼に何度も頭を下げました。「何もありません! まったく、これっぽちも!」

 

 ゴンバ君は、その言葉に目を細めました。それに苛立つ気持ちはもちろん、私への威嚇も込めて。その米神に青筋を走らせたのです。ゴルジ君は私の顔をしばらく睨みましたが、やがて私の顎を摘まみはじめました。「おい、てめぇ! いくら美人だからって、あんまり調子こくとぶっ飛ばすぞ!」

 

 私は、その言葉に固まりました。特に言葉の中にあった「美人」と言う部分、これには思わず「え?」と思ってしまったのです。私は彼の威嚇に怖がっているのか、それとも今の「美人に」に戸惑っているのか分からない気持ちで、彼の顔をじっと見かえしました。相手の顔はやはり、私の顔をじっと睨んでいます。「ご、ごめんなさい! で、でも! 戦いは、ほら? もう、終わったんだし。そんなにイライラしなくても? ね?」

 

 ゴンバ君は、その言葉に眉を上げました。その言葉にどうやら、イラッときたようです。彼は私の前に詰めよって、私の目をじっと睨みました。「うせぇ! こっちは、消化不良なんだ! せっかく倒せそうだった敵を逃して、こんな! 本当にイライラする。これはどこかに寄り道しないと、気がすまねぇ!」

 

 私は、その言葉に「ポカン」としました。それが意味するところ、ではありません。彼が「それ」を言った気持ちにも、ただ「えぇええ?」と思いました。私は疲れた顔で、彼の顔を見かえしました。「この人は一体、何なんだ」と言う気持ちで。

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